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焦点:宙に浮く「コロナ財源論」、多年度中立の復興モデルに遠く

発行済 2021-03-10 11:18
更新済 2021-03-10 11:27
© Reuters. 焦点:宙に浮く「コロナ財源論」、多年度中立の復興モデルに遠く

山口貴也、梶本哲史

[東京 10日 ロイター] - 東日本大震災からの復興に向け、日本政府は復興債の償還財源を定め、早々に「多年度中立」の道筋をつけた。しかし、新型コロナ対策では財源の当てのない赤字国債頼みの調達が続き、財源論議そのものも始まる兆しはない。

復興基金の創設や増税準備を始めた欧米に後れをとれば、日本の財政運営に厳しい視線が向けられそうだ。

歳出が玉石混交(こんこう)で、非常時を口実にした財政の膨張に歯止めが掛からない――。今年1月、東京財団政策研究所は「ポストコロナの財政、税制、社会保障の議論を」とする緊急提言を公表し、森信茂樹研究主幹を筆頭とする財政論者の連名で、新型コロナ対策特別会計の創設を訴えた。

2011年3月の被災当初、政府は11年度一般会計予算で4度にわたる補正を編成したが、12年度からは新設の東日本大震災復興特別会計での運用を始めた。一般会計から切り離すことで複雑な資金の流れを分かりやすくするのと同時に、復興債を着実に償還する狙いからだ。

累次の予算規模は32兆円余り。復興債を発行するなどして原発事故からの復興や被災者支援に充ててきた。復興債は、25年間にわたる所得税の2.1%上乗せや政府保有株の売却益などで返済、償還する。

一方、コロナ禍の20年度一般会計予算では、政府歳出が175兆円余りと当初想定を73兆円上回り、21年度予算案に計上した予備費5兆円を含めたコロナ関連の経費は78兆円と、すでに震災予算の倍以上となる。

追加経費の大半を赤字国債で調達する野放図な現状に、提言にも名を連ねる小黒一正法大教授は「(復興特会を参考に)新型コロナ対策でも金額を確定させ、追加発行した国債については別勘定に移して処理する必要がある」と言う。

「コロナ関連の経費は、生活や人的資本を守る、という側面がある」と河合正弘東大院客員教授は指摘し、国債償還の財源に「消費税の一部を回すことや所得税増税を検討すべきだ」と話す。

もっとも収束の見えない感染対応に追われ、政府内では、追加経費をどう負担するかの財源論議は進んでいない。

立憲民主党の日吉雄太委員は2月の衆院財務金融委員会で、コロナ収束後の消費税率引き上げを質し、麻生太郎財務相は「これまでも将来世代の責任を果たすため、今の世代が負担を分かちあう取り組みを(財政措置と)併せて行ってきた」と、先行きの増税に含みを持たせた。一方、麻生氏は、発言が独り歩きするのを避ける必要があると「(消費税率を)上げるとも下げるとも、言うつもりはない」との考えも述べ、現在でも明確な立場は示していない。

東京都議選が6月25日告示、7月4日投開票で行われることや、衆院議員の任期満了を10月21日に控えた政治情勢もあり、与党からは「税の追加負担を求めるなら、まずは歳出削減に踏み込むのが筋だが、予算の3分の1を占める社会保障費には厳しい労働環境を強いている医療分野も含まれメスを入れにくい」(中堅議員)との声が聞かれる。

「財源もはっきりせず、詰まるところ赤字国債で対応するのであればコロナ対策経費を別勘定にする意味もない」と、政府関係者の1人は言う。

欧州連合(EU)は昨年12月の首脳会談で、27年までの中期予算(MMF)と復興基金の創設で合意し、基金創設に向けた準備を始めた。

米国は1.9兆ドル(約200兆円)の大型経済対策を実行に移す一方で、バイデン氏が大統領選で掲げた法人税や遺産税、富裕層向けの増税案を推進する構えだ。「震災時とは桁違いに日本の財政状況が悪化する現状に、どう後始末を付けるのか。責任ある政治家が全国民に訴えていただきたい」と、前出の河合氏は言う。

<利払い負担増加、懸念も>

参院で審議している21年度予算案は、予備費5兆円を除けば一般会計総額が101兆6097億円と、コロナ前の20年度当初(102兆6580億円)を下回った。

予算案では、赤字国債を含む新たな国債発行予定額も43兆5970億円とし、当初予算額で過去最大だったリーマン危機後の10年度当初(44.3兆円)よりは少ない。コロナ対応を優先する中でも財政規律に配慮する姿とした。

ただ、累次のコロナ対策経費の過半を1年以内に償還期限を迎える短期債調達とした影響で、国が21年度に市場調達する「カレンダーベース市中発行額」は221兆4000億円と、むしろ20年度より多い。

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短期国債は外国人投資家も多く保有しているとされ、「債務をきちんと処理していく姿が見えないと嫌気され、不要な利払い負担費用の増加につながりかねない」(小黒法大教授)との見方がある。

(山口貴也、梶本哲史 編集:石田仁志)

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