浜田寛子
[東京 18日 ロイター] - 日本のオフィス不動産に、海外投資家からのマネーが流入している。新型コロナウイルスの影響もあり国内企業の自社ビル売却や郊外型オフィスへの移転が活発化しているが、海外勢の需要は逆に増加。不動産全体の購入シェアは2007年以来の高水準となった。収益性の高さや、1件あたりの投資額が大きいといった魅力があると指摘されている。
<投資規模の大きさが魅力>
相次ぐ自社ビル売却の背景には、最近の日本の不動産市場が「売り手市場」になっていることがあると、ニッセイ基礎研究所の金融研究部・佐久間誠氏は分析する。海外投資家のマネーが日本に流入していることで、売却しやすくなっている面があるという。
「手元資金の確保やテレワーク普及によるオフィスの見直しなど、売却する理由はそれぞれ異なるが、投資家にとっては、カネ余りの状況が続き、好立地で条件の良いオフィスビルであれば安定的な利益を生み出すことができるため、投資対象として魅力的に映っている」と佐久間氏は話す。
不動産サービス大手のJLLがまとめたデータによると、グローバルベースの不動産直接投資総額では東京が20年は3位と前年の6位から上昇。日本の不動産を購入した海外投資家の割合は同期間で34%に達し、07年以来の高水準となった。
JLLのリサーチ事業部・ディレクターの大東雄人氏は、1つの物件で数千億円規模のアセットが存在する東京は、世界的にみてもまれな都市だと指摘する。「他のアジアのマーケットでは売却案件が少なく、アセットの規模も小さい。海外投資家にとって、分散投資の対象として東京は外せない」という。
自社ビルの売却は1000億円単位の規模に達する物件も多くなるとみられ、海外投資家にとっては魅力的だ。
●最近の自社ビル売却(検討含む)
売り手 所在地 買い手 売却額
エイベックス 東京都港区 ─ 約720億円
電通グループ(検討中) 東京都港区 ― ─
日本通運(検討中) 東京都港区 ― ─
近鉄グループ 非公表 子会社が保有するビルを複数のファンドへ売却 約400億円
リクルート 東京都中央区 ヒューリック 非公表
<空室率は上昇も収益率はプラス維持>
都心オフィスの空室率は上昇している。オフィスビル仲介大手の三鬼商事が11日発表した2月末時点の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス平均空室率は、前月比0.42ポイント上昇し5.24%となり、約6年ぶりの高水準となった。
JLLがまとめたデータによると、2月末時点の東京Aグレードオフィス市場における空室率は1.7%だが、外資系企業が多く集まる六本木・赤坂エリアの空室率は2.8%(20年末時点)となっている。「国内の大手企業と比べると意思決定が早い分、オフィス縮小の流れが加速しているのではないか」と大東氏は指摘する。
だが、オフィスビルは収益性を維持している。ニッセイ基礎研究所によると、継続比較可能なJ-REITの保有ビルを対象にした賃貸事業収益率は、20年下期に前期比1.1%増と11期連続で上昇した。
オフィス仲介大手の三幸エステートでは、東京都心5区の1フロア面積50坪以上のオフィスビルの空室率は、21年―23年の間、3%―5%台で推移すると予想している。20年末の2%から上昇するとみているが、リーマン・ショック後の8%超と比較すると低い水準で推移すると予測する。
「こうした底堅いオフィス需要も、海外勢からの人気につながっている」と、三幸エステートのマーケティング事業本部市場調査部長・今関豊和氏はみる。
<日本の「ファンダメンタルズ」を評価>
不動産投資顧問会社(訂正)のラサール不動産投資顧問の執行役員で、ヘッドオブアクイジション・アセットマネジメント(日本)兼アジア太平洋地域・共同最高投資責任者を務める奥村邦彦氏は、海外勢にとって日本のオフィス不動産市場はファンダメンタルズの底堅さが魅力になっていると話す。
「マーケットの裾野が広く、かつ流動性が潤沢にあり、ファンダメンタルズがしっかりしている国はそんなに存在しているわけではない。欧米と比較して新型コロナの打撃が少なく回復が早いという点も評価されている」という。
依然としてオフィス不動産を巡る先行きは読みにくく、コロナ後に出社率や需要が以前のように戻るかは不透明だ。
ただ、奥村氏は希少性の高い物件であれば、リモートワークが進んだとしてもテナントが入る可能性は高いとみる。「リスクを取ってでも、付加価値を付けて競争力を高めていけば、オフィス投資は十分にリターンを見込めるセクターだと考える人がたくさんいる」と話している。
*本文中の「大手不動産サービス企業のラサール不動産投資顧問」を「不動産投資顧問会社のラサール不動産投資顧問」に訂正します。
(浜田寛子 編集:伊賀大記)