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アングル:デルタ株が覆すコロナの概念、規制社会に逆戻りも

発行済 2021-07-30 19:24
更新済 2021-07-30 19:27
© Reuters.  7月26日、新型コロナウイルスの中でインド由来のデルタ株は最も感染スピードが速く、適応力が高い一番手ごわい敵であり、各国が規制解除や経済再開に動いている最中で新型コロナ感

[26日 ロイター] - 新型コロナウイルスの中でインド由来のデルタ株は最も感染スピードが速く、適応力が高い一番手ごわい敵であり、各国が規制解除や経済再開に動いている最中で新型コロナ感染症を巡る概念を覆しつつある――。これがウイルスや伝染病の研究者の見解だ。

ロイターが取材した新型コロナウイルスの有力専門家10人によると、ワクチンは依然として重症化や入院を防ぐ上で非常に高い効果を持ち、リスクが最も大きいのはワクチン未接種者である点に変わりはない。だがデルタ株は、従来株や他の変異株に比べてワクチンを完全に接種した人への感染力が強いことを示す材料が増えてきており、そこからさらに感染が拡大するのではないかとの懸念が生じているという。

何人かの専門家は、その結果としてワクチンが普及している国でさえ、特定条件下でのマスク着用、物理的距離の確保といった措置を再び導入する必要があるかもしれないと警告した。

最近ではイスラエルが屋内でのマスク着用と入国者の自主隔離義務を復活させた。米国でもワクチン接種者向けのマスク着用指針を改定すべきかどうか検討が進んでいるところだ。全米の郡で最大の人口を抱えるロサンゼルス郡は、屋内の公共スペースではワクチンを接種した人にもマスク着用をまた強制している。

英国で新型コロナウイルス変異株の遺伝子解析作業を統括するシャロン・ピーコック氏は「現時点で世界にとって最大のリスクはデルタ株に尽きる」と語り、デルタ株はどの株よりも生き残る力があり、感染スピードがあるとの見方を示した。

ウイルスは常に変異しながら進化し、新たな変異株は従来株より危険な場合もある。ただデルタ株に関する主な懸念は、より症状が重くなることではなく、人から人へより簡単に広がるためワクチン未接種者の間で感染者や入院患者を増やしてしまう点だ。

英イングランド公衆衛生庁(PHE)は23日、英国でデルタ株に感染して入院している3692人のうち、ワクチン未接種者が58.3%、ワクチンを完全に接種した人は22.8%だったと明らかにした。

シンガポール政府が23日発表した報告では、国内感染の大半をデルタ株が占めており、感染者の4分の3はワクチン接種を終えた人だったという。

イスラエルの保健当局は、現在新型コロナウイルス感染症で入院している人の60%がワクチン接種者だと述べた。その大半は60歳以上で、基礎疾患がある傾向も見られた。

世界で最も感染者と死者が多い米国の場合、新規感染者のおよそ83%はデルタ株。これまでのところ重症者の97%近くは、ワクチン未接種者だ。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の感染症専門医モニカ・ガンディー博士は、多くのワクチン接種者は、軽症になるのをワクチンで100%防げないことに失望しているが、現在新型コロナウイルス感染症で入院中のほぼ全ての米国民がワクチンを打っていなかったという事実は「かなり驚くべき(ワクチンの)効果だ」と強調した。

<高い効果がもたらした皮肉>

イスラエルのベングリオン大学のナダブ・ダビドビッチ公衆衛生学部長は「われわれが抱える全ての問題を一挙に解決する魔法の手段があるという幻想が常に存在する。新型コロナウイルスは、われわれに1つの教訓を与えてくれている」と語る。

最も有効性が高い部類に入るファイザー/ビオンテック製のワクチンでも、イスラエルではデルタ株の浸透によって過去1カ月の感染予防効果は41%にとどまったもようであることが、政府のデータからうかがえる。もっともイスラエルの専門家は、結論を下すためにはさらなる情報の分析が必要だとしている。

ダビドビッチ氏は「自分の発症を防ぐ効果は非常に高い。ただし他人への感染を予防する効果は著しく低い」と説明した。

中国で行われた調査では、デルタ株感染者が鼻孔に保有するウイルス量は従来株の場合の1000倍に上ることも分かった。ピーコック氏は「実際、(デルタ株感染者は)より多くのウイルスを飛散させ、だからこそ感染力が高くなる。これはまだ調査中の事案だ」と話した。

カリフォルニア州のラホヤ免疫研究所のウイルス研究者シェーン・クロッティ氏は、デルタ株の感染力は英国由来のアルファ株を50%上回ると指摘。「他のあらゆる株よりもずっと効率的に拡散するので、感染競争で他を圧倒している」と述べた。

同じラホヤにあるスクリップス・リサーチ・トランスレーショナル・インスティテュートの所長を務めるゲノミクス専門家エリック・トポル氏は、デルタ株の潜伏期間が相対的に短く、ウイルス粒子の数がはるかに多い点に触れた上で「それゆえに難敵になってしまう。ワクチン接種を終えた人は特に注意しなければならない」とくぎを刺した。

米国では、デルタ株が着実に浸透したまさにそのタイミングで、ワクチン接種者も未接種者も屋内でのマスク着用をやめてしまっている。

トポル氏は「ダブルパンチだ。最も手ごわいウイルスに直面している時に規制を緩めることが一番望ましくない」と訴えた。

非常に有効性が高いワクチンが開発されたことで、いったん接種すればもう新型コロナウイルスは大して怖くないという思いを多くの人に持たせてしまう結果になったのかもしれない。

ジョージア州アトランタにあるエモリー大学のカルロス・デルリオ教授(医薬品・感染症)は、ワクチンが最初に開発された時点で感染を予防できると考えた人はおらず、目的は重症化と死亡を阻止することだったはずだが、実際の効果が大きく、以前の幾つかの変異株の感染も防いでしまったせいでかえって「われわれは甘やかされた」と嘆いた。

(Julie Steenhuysen記者 Alistair Smout記者 Ari Rabinovitch記者)

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