[ベイルート 15日 ロイター] - かつては世界有数の収益性を誇ったものの、近年は金融危機や政治リスクに翻弄されているレバノンの多くの銀行が、中央銀行に今月末の期限を設定された自己資本の20%積み増し要求達成に悪戦苦闘を続けている。
中銀は昨年8月、銀行セクターの基盤強化を狙ってこうした目標を導入した。しかし事情に詳しい4人の銀行関係者によると、十数に上る国内大手行のうち達成できそうな銀行は半分に満たない。
こうした現状は、レバノンの銀行が直面する問題の大きさを物語る。つまり世界最大規模の債務を抱えるレバノン政府相手の取引ウエートが非常に高く、資金調達もままならないという現実だ。困難にさらされたこうした銀行では、顧客も2019年終盤以降、ドル建て預金をほぼ凍結され、海外に資金を移すこともできない。
銀行セクター全体が生み出している膨大な損失を考えると、打つ手があまりに貧弱でスピードも遅いと指摘する投資家やエコノミストもいる。
中銀のサラメ総裁はロイターに対し、20%の資本増強を金額に換算するとおよそ40億ドルになることを確認した。政府が昨年時点で、当時策定した銀行セクター救済計画の一環として試算した資本不足総額の830億ドルと比べ、お話にならないほど少ない。その後に救済計画が改定され不足額は690億ドルに少なく算定され直したとはいえ、事情はさほど変わらない。
債務ファイナンスアドバイザーのマイク・アザール氏は「レバノンの銀行は全て債務超過だ。現状で持ち直す見込みはない。セクター全体の清算と再編をして、最終的に新たな資本が調達されるまではだ」と述べた。
中銀は、銀行が大口預金者に預金高の最大3割を本国に戻すことを求めるよう命じた。これも先の関係者4人の話では、たいして効果を発揮していない。
もっともバンク・オブ・ベイルートの最高経営責任者(CEO)でレバノン銀行協会トップを務めるサリム・スフェア氏はロイターに、レバノンの銀行セクターはこれまでさまざまな苦難に耐え、創意工夫をこらしてきた歴史があると強調。新たな状況に順応していけるとの自信を示した。
中銀も、自己資本増強目標への各行の対応を評価するには時期尚早だと表明はしている。サラメ氏は、銀行がさらなる資本を必要とする可能性があると認めた上で「中銀はこの問題に取り組む銀行に個別に協力していく」と説明した。
一方、ソーシャルメディアでは、資本増強の期限が近づくのにつれて、どの銀行が清算されるかを巡る臆測が次々に流れている。中銀は先週、そうした話には一片の真実もないと強調する声明を公表した。
サラメ氏はこれまで、目標達成できない銀行は市場から退出しなければならないと警告を発していた。ただ一部の銀行関係者はロイターに、足元で新たな出資を確保する望みがほとんどない以上、達成期限は延長されるだろうとの見立てを披露した。
政府がまとめた銀行救済計画に従うため、銀行では株主や預金者がおおむね損失を負担し、ドル預金の株式への転換や海外事業売却を画策。しかし銀行や政治家からの救済計画妨害もあり、国際通貨基金(IMF)との融資協議がうまくいかなくなる要因ともなった。
こうした中でロンドンのSAMキャピタル・パートナーズで中東・北アフリカ担当ファンドマネジャーを務めるハレド・アブデル・マジード氏は「20%の増資は有効だが、不十分だ。私はレバノンの銀行株がいくらになっても手を出さない。同国では事態が良くなる前に、今よりはるかに悪化する場面が出てくるだろう」と語った。
さらにスイスの検察が先月、レバノン中銀が関係する資金横領とマネーロンダリングについて捜査に乗り出していると表明。ただでさえ手法が批判を浴びるサラメ氏は新たな取り調べに直面することになり、同氏の今後にも暗雲が垂れ込めている。サラメ氏は不正行為を否定しており、この捜査が総裁としての立場や銀行セクター全般にどう影響するかというロイターからの質問にも回答していない。