[シンガポール 14日 ロイター] - シンガポール金融管理局(MAS、中央銀行)は14日、市場予想に反して金融政策の引き締めを決定した。中期的に物価安定を確実にするための措置だと説明した。
供給制約や世界経済の回復に伴いコスト圧力が高まる中、2018年10月以来3年ぶりに引き締めにかじを切った。
ロイター調査によると、エコノミスト13人のうち11人が政策の現状維持を予想。残り2人が小幅な引き締めを予想していた。
MASは金利ではなく、主要貿易相手の通貨に対してシンガポールドルを非公開バンドの中で上げ下げさせることによる為替レート設定を通じて金融政策を運営。「シンガポールドル名目実効為替レート(SドルNEER)」として知られる政策バンドの3つのレバー(傾き、中央値、幅)を通じて政策を調整している。
MASはSドルNEER政策バンドの傾き(上昇率)をこれまでのゼロ%から小幅に引き上げると表明。政策バンドの幅と中央値に変更はないとした。
DBSのシニアエコノミスト、アービン・シーア氏は、成長とインフレがリセッション的な状況から脱却しつつあることを受けた措置と解説。「経済のファンダメンタルズに沿った調整だ。成長とインフレ率に上振れリスクがない限り、一段の引き締めはないだろう」と語った。
MASは声明で、今回決定の「政策バンド上昇の道筋は、景気回復へのリスクを認識しつつも、中期的な物価安定を確実に図る」狙いがあると表明した。
MASは今年の国内総生産(GDP)成長率が6─7%になり、2022年は伸び率が鈍化するもののトレンドを上回るとの見通しを示した。この日発表された第3・四半期GDP速報値は前年同期比6.5%増だった。
コアインフレ率については、来年は1─2%に上昇する見込みで、中期的に2%に迫ると予想した。
今年のコアインフレ率は、0─1%の予想レンジの上限付近になると見込んだ。同指標は8月に約2年ぶりの大幅な上昇を記録した。
シンガポールドルは中銀の発表を受けて、対米ドルで一時0.3%急伸し、3週間ぶり高値である1米ドル=1.3475Sドルを付けた。その後はやや押し戻され、1.3490Sドルとなった。
バンク・オブ・シンガポールのアナリスト、モー・シオン・シム氏は、政策変更は「タカ派的サプライズ」だったが、Sドルの抑制に十分なほど小幅なものだったと指摘。「政策正常化に向けてわずかに進み始めた形だが、世界のインフレの動向を踏まえると妥当だ」と述べた。
OCBC銀行の国債調査・戦略部門責任者、セレーナ・リン氏は「2022年の景気とインフレ率の見通しは明らかに楽観度が増しており、中銀は労働コストを含め、国内と海外から持ち込まれたコスト上昇圧力を重視しているようだ」と指摘した。
「中銀が、ワクチンに耐性がある(新型コロナウイルスの)変異株の出現や世界経済の深刻な緊張要因に短く触れた以外は、下振れリスクに関する警告を全て削除したのも予想外だった」と述べた。