[ロンドン 27日 ロイター] - 中央銀行が経済指標の悪化を受けて、利上げ積極化の手をゆるめるかもしれないーー。米英の短期金融市場は今、こうした観測を強め、利上げでそれぞれ達する政策金利の上限予想を引き下げている。
短期金融市場ではこの3週間で、米連邦準備理事会(FRB)が50ベーシスポイント(bp)幅で利上げするとの見方が後退。フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標の上限は来年6月に3%と見なす形になっている。今回の米引き締め局面の合計利上げ幅予想は5月初め時点の予想255bpから210bpポイントに縮小した。
英国でも同様だ。同国は今年のインフレ率が10%になると見込まれているが、景気後退のシグナルが出ていることで、来年6月までの利上げ幅は5月初め時点での予想165bpから120bpに縮み、政策金利は2.4%前後で頭打ちになるとの見通しになっている。
キャピタル・グループの投資ディレクター、フラビオ・カーペンザーノ氏は「市場が今やっているのは、インフレへの注目をやや下げ、景気後退のリスクへの注目をより高める作業だ」と指摘。これが市場の織り込み再調整につながっているとみる。
同氏によると、金融環境が引き締まって株式市場が20%下がるような時には、FRBが利上げの手を緩めて株価に助け船を出してくれると市場は今なお信じている。世界の株式市場は27日までの週にようやく上昇し、7週連続の下落相場から脱したが、背景にはこうした短期金融市場の予測再調整がある。
ただカーペンザーノ氏自身は、物価上昇がFRB目標の4倍になっている以上、FRBは金融姿勢を緩めることはできないとみる。「物価上昇率が前月比で0.5%を超えているなら、FRBはかなりタカ派的にならざるを得ない」と言う。
FRBの動きを正しく予測することは各金融市場にとって最重要になっている。米国や他の先進国が引き締めを開始して以来、世界の株式市場が何兆ドルも値下がりしているからだ。
米住宅市場の鈍化やほかの経済統計の悪化。さらにはシティの経済サプライズ指数の4週間での低下が過去20年で最も大幅になったことも考えれば、短期金融市場の予想修正は意外ではないかもしれない。
他にも修正の余地を示す統計がある。米個人消費支出(PCE)物価指数の4月の上昇率は0.2%で、3月の0.9%から減速。これはインフレがピークに達した可能性も示唆する。
米国の景気後退の確率については、米ゴールドマン・サックスは現在、向こう2年で35%とみる。ただ、同社によると、どのような景気シナリオであっても、株式の配当は向こう2年では下がる見込み。アトランタ連銀のボスティック総裁など一部のFRB当局者は、利上げの影響について慎重になるよう訴えてきている。
ブラックロックの上級投資ストラテジスト、ローラ・クーパー氏は、今年末までにFRBがハト派に傾くと予想する。向こう2回の市場政策委員会(FOMC)で市場が織り込んでいるそれぞれ50bpずつの利上げが終われば、FRBは実際の経済統計により即して決定するようになるためという。
ピクテ・ウェルスの上級エコノミスト、トーマス・コスターグ氏によると、FRBは50bp幅で2回利上げした後、いったん手を止める。米国の金融環境が過去2年で最も引き締まっていることが理由。「FRBの仕事はもう75%済んだと言えるのではないか」と指摘。今年末までに米経済成長率が2%を下回ると予想した上で、これは通常、ディスインフレ的と見なされるとの考えを示した。
一方、英国では景気後退の可能性が米国より高いとの見方があるにもかかわらず、イングランド銀行(中銀)は後ずさりが難しいことに気が付くかもしれない。英政府は150億ポンドの支出計画を発表したばかりだ。つまり、ゴールドマンによれば、代わりに中銀が引き締めを強いられる。来年2月までに25bpずつ利上げし、政策金利のピークは2.5%になるとみている。