6月に入り、サウジアラビアをはじめとする中東湾岸諸国が相次いでカタールとの国交断絶を表明し、同国はほぼ孤立した状態となりました。
この混乱が長引けば、カタールが世界屈指の富裕国とはいえ国内経済への影響は避けられないでしょう。
湾岸発の意外な国交断絶問題が、今後戦争や金融危機を招くと考えるのは杞憂でしょうか。
サウジアラビアが4日に突然カタールとの国交断絶を発表し、その後を追う形でアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトなど数カ国が翌5日にかけて次々に断交を決めました。
各国ともカタールのイスラム過激派組織やイラン寄りの外交姿勢を激しく抗議しているようです。
金融市場は8日に集中した欧州中銀(ECB)理事会やアメリカ連邦捜査局(FBI)前長官の議会証言、イギリス総選挙といった重要イベントに注意を引き付けられていたため、金融市場には唐突感をもって受け止められました。
しかし、もともとカタールとそれ以外の湾岸諸国とは、外交政策をめぐり対立が続いていました。
カタールはパレスチナ自治区を支配するハマスなどイスラム原理主義組織を支援するほか、シリアなどの過激派組織との関係も一部で維持しており、サウジなど4カ国はこうしたカタールの方針に不満を強めていたようです。
また、湾岸諸国の盟主サウジは中東での覇権争いでイランに対決姿勢を示していますが、カタールは関係の近いイランと対立するサウジに批判的でした。
カタールと他の湾岸諸国とのこうした対立は徐々に激しさを増し、5月にカタールのサーニ首長によるイランやハマスを支持するとの発言を国営通信が報道。
それをきっかけに一気に緊張が高まり、今回の国交断絶へと発展しました。
カタールを含む湾岸6カ国は1981年5月、地域機構「湾岸アラブ諸国の協力会議」(GCC)を発足させ、地域の安定に取り組んでいました。
これは欧州連合(EU)の中東版といえるもので、最終的には通貨の統合を目指していました。
各国の歴史的なつながりも考え合わせると今回の対立は意外に感じる人が多いのではないでしょうか。
過去数十年で最も緊迫した状況とも指摘される今回の国交断絶で交通網は遮断され、人やモノの移動の自由が途絶えているようです。
カタールは1人当たりの国内総生産(GDP)が世界189カ国中第7位の6万ドル(日本は22位、3.9万ドル)で中東ではダントツのトップです。
豊富なオイルマネーが行き届き、所得税がなく医療費や電気代、電話代もタダ。
大学を卒業すれば一定の土地を無償で借りられる制度があり、10年後にはその土地を所有できるという夢のような富裕国です。
しかし、国交断絶により孤立が長期化すれば、経済への影響も深刻になるでしょう。
カタールのドーハ株価指数は10%も下げ、通貨リヤルがドルペッグ制を維持できるのかという疑問も生じます。
アメリカの著名な投資家が「世界的な混乱は意外なところから始まる」と話していますが、2008年のリーマン・ショックでは北欧の小国アイスランドに最も早くその影響が表れました。
湾岸の国交断絶問題は、よくみるとアメリカ同盟国間の仲間割れで、金融危機や戦争などに発展する危うさをはらんでいます。
今後はアメリカやロシア、中国など大国、さらにイランやイスラエルなど周辺国がこの問題にどのように関わってくるか注目されます。
(吉池 威)
この混乱が長引けば、カタールが世界屈指の富裕国とはいえ国内経済への影響は避けられないでしょう。
湾岸発の意外な国交断絶問題が、今後戦争や金融危機を招くと考えるのは杞憂でしょうか。
サウジアラビアが4日に突然カタールとの国交断絶を発表し、その後を追う形でアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトなど数カ国が翌5日にかけて次々に断交を決めました。
各国ともカタールのイスラム過激派組織やイラン寄りの外交姿勢を激しく抗議しているようです。
金融市場は8日に集中した欧州中銀(ECB)理事会やアメリカ連邦捜査局(FBI)前長官の議会証言、イギリス総選挙といった重要イベントに注意を引き付けられていたため、金融市場には唐突感をもって受け止められました。
しかし、もともとカタールとそれ以外の湾岸諸国とは、外交政策をめぐり対立が続いていました。
カタールはパレスチナ自治区を支配するハマスなどイスラム原理主義組織を支援するほか、シリアなどの過激派組織との関係も一部で維持しており、サウジなど4カ国はこうしたカタールの方針に不満を強めていたようです。
また、湾岸諸国の盟主サウジは中東での覇権争いでイランに対決姿勢を示していますが、カタールは関係の近いイランと対立するサウジに批判的でした。
カタールと他の湾岸諸国とのこうした対立は徐々に激しさを増し、5月にカタールのサーニ首長によるイランやハマスを支持するとの発言を国営通信が報道。
それをきっかけに一気に緊張が高まり、今回の国交断絶へと発展しました。
カタールを含む湾岸6カ国は1981年5月、地域機構「湾岸アラブ諸国の協力会議」(GCC)を発足させ、地域の安定に取り組んでいました。
これは欧州連合(EU)の中東版といえるもので、最終的には通貨の統合を目指していました。
各国の歴史的なつながりも考え合わせると今回の対立は意外に感じる人が多いのではないでしょうか。
過去数十年で最も緊迫した状況とも指摘される今回の国交断絶で交通網は遮断され、人やモノの移動の自由が途絶えているようです。
カタールは1人当たりの国内総生産(GDP)が世界189カ国中第7位の6万ドル(日本は22位、3.9万ドル)で中東ではダントツのトップです。
豊富なオイルマネーが行き届き、所得税がなく医療費や電気代、電話代もタダ。
大学を卒業すれば一定の土地を無償で借りられる制度があり、10年後にはその土地を所有できるという夢のような富裕国です。
しかし、国交断絶により孤立が長期化すれば、経済への影響も深刻になるでしょう。
カタールのドーハ株価指数は10%も下げ、通貨リヤルがドルペッグ制を維持できるのかという疑問も生じます。
アメリカの著名な投資家が「世界的な混乱は意外なところから始まる」と話していますが、2008年のリーマン・ショックでは北欧の小国アイスランドに最も早くその影響が表れました。
湾岸の国交断絶問題は、よくみるとアメリカ同盟国間の仲間割れで、金融危機や戦争などに発展する危うさをはらんでいます。
今後はアメリカやロシア、中国など大国、さらにイランやイスラエルなど周辺国がこの問題にどのように関わってくるか注目されます。
(吉池 威)