© Reuters. ブレグジットとUKロック【フィスコ・コラム】
1991年に45歳で死去したイギリスのシンガー、フレディ・マーキュリーが生きていたら、ブレグジットをどのように眺めていたでしょうか。
世界で大ヒット上映中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見た後、余韻に浸りながらそんなことをふと考えました。
映画のタイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ」はロックバンド、クイーンが1975年に発表した名曲。
「ボヘミアン」とは慣習や常識などにとらわれず、自由奔放に生きる人という意味があります。
フレディは、10代後半からタンザニアのザンジバルで暮らしていましたが、革命が起こり家族とともに当地を逃れました。
その後イギリスに移り住み、階級社会の下で差別的な扱いを受けた苦い経験を持っています。
この曲は当時29歳だったフレディが、自身の生い立ちを自省的に振り返った内容と解釈でき、バラードやオペラなど5部構成にしてドラマチックに歌い上げています。
曲調の異なるメロディを組み合わせた「ラプソディ」で、ロック界に新風を吹き込んだと言えるでしょう。
今聴いても斬新さが際立っています。
その後も超越した才能を作曲活動に注ぎ、数々のヒット曲を生み出しました。
映画はクイーンの結成から全盛期を中心に描き、アフリカの難民救済のために企画された1985年7月の大規模チャリティ・コンサート「ライブ・エイド」が1つのハイライトになっています。
しかし、華やかなステージ上のパフォーマーの姿とは裏腹に、フレディはいつも孤独感にさいなまれていました。
同性愛者であることや容姿のコンプレックスも抱えた、愛に飢えた心の難民だったのかもしれません。
それにしても、平日のレイトショーにもかかわらず満席に近い盛況ぶりで、クイーンの衰えない人気を実感しました。
同時に、ビートルズ以来のUKロックの影響力に改めて驚かされます。
2017年のイギリス音楽輸出による売上高は、CD販売やネット配信を含め4億ポンド(約600億円)と2000年以降の統計では過去最高を記録。
内訳をみると欧州地域はその42%を占め、35%のアメリカを上回っています。
ブレグジットの影響は、すでに大御所の地位に上り詰めたとなったミュージシャンにはほとんどないでしょう。
ただ、イギリスの音楽業界関係者からは、「ライブツアーでスムーズに移動できなくなる」「関税の復活などで販売価格が上昇すれば売上高が減少する」といった懸念の声が聞かれます。
UKロックは英語による発信を強みとしていますが、コスト意識が強まるなど盲点があるのかもしれません。
ブレグジットはイギリス国民の民意ですが、メイ政権がまとめた離脱合意案に対する批判は強く、議会での承認が困難な状況です。
目先も二転三転が予想され、最終的にどのような結末になるのか誰も読み切れません。
歌の方の「ボヘミアン・ラプソディ」は、波乱に満ちたメロディ展開を銅鑼(どら)の音で締めくくっています。
来年3月29日の離脱の日に記念の銅鑼を打ち鳴らすことができるでしょうか。
(吉池 威)
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