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アングル:中東の貧困救済、不完全なアルゴリズムが取りこぼす人々

発行済 2023-10-10 11:23
更新済 2023-10-10 11:28
© Reuters.  レバノン北部の狭苦しい小屋で暮らす失業中のアスマ・イブラヒムさんにとって、最貧層を対象とする生活保護給付を自分がなぜ受けられないのか、まったくの謎だ。写真はレバノンのウ

Nazih Osseiran Avi Asher -Schapiro Menna Farouk

[ベイルート/カイロ 4日 トムソン・ロイター財団] - レバノン北部の狭苦しい小屋で暮らす失業中のアスマ・イブラヒムさんにとって、最貧層を対象とする生活保護給付を自分がなぜ受けられないのか、まったくの謎だ。それがもらえれば、5人の子どもたちが空腹のまま眠りにつくこともなくなるのに。

イブラヒムさんは、貧困地域のアッカルから電話で取材に応じ、「困窮者に何も届いていない」と語った。1年以上も前の申請が却下された理由を尋ねるため、政府のホットラインに週2回電話していたという。

説明を得られないまま、イブラヒムさんは政治腐敗を非難し、近隣住民の中には給付を受けている人もいると憤る。

「どれほど惨めな思いを抱いたことか」

レバノンをはじめアラブの9カ国では、アルゴリズムに基づく貧困評価法を採用している。世界銀行の資金提供で作成され、数十のさまざまなデータ点に基づき給付申請者をランク付けするものだ。

このソフトウエアは「プロキシ・ミーンズ・テスティング(代理資力調査、PMT)」と呼ばれ、家族の人数、住所、家畜や車の所有状況といった要素を考慮するが、採用国がその指標の詳細を完全に開示しているわけではない。

こういった手法を使う目的は、給付対象を最も困窮している人々に絞り込むことで、給付をより公平かつ効率的に行うことだ。だが活動家や研究者は、アルゴリズムによる手法が誤って人々を排除してしまうことも多いと指摘する。

ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)で人工知能(AI)と人権に関する上級研究員を務めるアモス・トー氏は、「こうしたアルゴリズムは、人々が置かれた状況をある時点で静的に切り取るだけだ。人々が実際にどのような苦労をしているかを示すものではない」と指摘する。

HRWが6月に発表した調査では、ヨルダンの「タカフル(連帯)」という生活保護制度について、多くの人は「その窮状が、アルゴリズムに組み込まれた不完全な貧困モデルに該当しない」ために経済的支援を受けそびれている、という結果が出ている。

<「この国の政府に正義はない」>

社会保障制度に取り組む国際的コンサルタントのチャド・アンダーソン氏は、問題の一端は、システムに入力されるデータが古いことが多いせいで恣意的に見える決定につながっている点にある、と指摘する。

レバノンとイエメンにおけるPMTベースの支援制度では10年以上前の国勢調査データを使っていることが研究者らによって明らかになっており、また専門家は、家計収入と消費水準の変動も貧困評価を歪める可能性があると話している。

「各国がターゲット選定のためのリストを数カ月、それどころか数年も更新しない例は多い」と、アンダーソン氏は語る。そして、こうした問題があれば、PMTのアルゴリズムは「無作為な宝くじシステム」同然になってしまうという。

冒頭のイブラヒムさんはアッカルの自宅で、「うちの申請が却下される理由が見当たらない」と語った。

レバノンの国家貧困対策制度のもとでは、彼女のような極貧の生活を送る7人家族には、月額145ドル(約2万1500円)を受給する資格があるはずだ。

イブラヒムさんの夫も失業中だ。目を病んで働けなくなったが、一家には治療費がなかったため、視力障害が残ってしまった。

「この国の政府には正義がない」とイブラヒムさんは嘆く。

レバノン政府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

世界銀行では、各国政府と協力してPMTベースの制度を各々のニーズに合うように調整してきたとして、中東地域に導入されて10年以上経ている同システムを擁護したものの、限界があることは認めている。

世銀による2020年の報告書では、中東・北アフリカ(MENA)諸国であるモロッコ、アルジェリア、サウジアラビア、チュニジアを含め、世界40カ国がPMTシステムを利用しているとされる。

世銀はトムソン・ロイター財団に対して書面でコメントし、「残念ながら、年齢ベースであれ、その他の基準に依拠するものであれ、完璧な手法は存在しない」と述べつつ、明らかに不公平な決定と見られる例については、「非常に深刻に受け止めており、関係チームとともに適切に対応していく」と続けている。

「幸い、そうした事例の処理に向けて、しっかりした標準的手続きが用意されている」と世銀は述べ、各国が苦情対応や救済メカニズムに多大な投資を行ってきたとも語った。

<誤記入のリスクも>

給付申請者が直面するハードルは他にもある。

ヨルダンではオンライン申請が可能だが、申請却下につながる誤記入のリスクを減らすために、地元の申請センターに足を運び、申請書への記入を手伝ってもらう方がいいと言う人は多い。

コンピューターに疎いためにオンライン申請ができないという人もいる。

だが、それだけ用心を重ね、主要な基準を満たしていると思われるにもかかわらず却下されたという人々もいる。

たとえばメイサさん(38)の場合、夫がエジプト人であるため、5人の子どもたちはヨルダン国籍を持っていない。ヨルダンの女性と結婚したからといって、配偶者や子どもには国籍が付与されないからだ。

フルネームを明かさないことを条件に取材に応じたメイサさんは、自分のタカフル給付申請が却下されたのは、子どもたちにヨルダン国籍がなく、家族ではなく個人の給付申請者として扱われたためではないかと話している。

HRWの報告書は、タカフル運用を担当する政府機関である国民援助基金(NAF)の説明を引用しつつ、同制度のアルゴリズムが世帯内のヨルダン国籍者の人数を基準に給付を決定していると述べている。

メイサさんは失業中で、もう1回申請を提出する機会を待つあいだ、借金を重ねるしかなかったという。

電話で取材に応じたメイサさんは、「子どもたちにはミルクもおむつも必要だし、食べ盛りの子もいる」と語った。

ヨルダン政府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

エジプトの首都カイロの年金生活者ハガグ・アブヤセルさんは、「タカフル・カラマ」制度に基づく給付申請を2回却下されたが、3度目にようやく承認された。

申請があると、担当者が家庭訪問して暮らし向きを評価し、データを収集してPMTソフトウエアに入力することになっている。だがアブヤセルさんの例では、そのような家庭訪問はなかったという。

アブヤセルさんは、「我が家の実情や、妻とどんな暮らしをしているのかさえ見に来てくれなかった」と語り、承認までに5年もかかったと嘆く。

エジプト政府にコメントを要請したが、回答は得られなかった。

<費用と利点>

アムネスティ・インターナショナルでMENA地域担当副局長を務めるアヤ・マジズーブ氏は、アルゴリズムによる対象選定よりも、各国政府がユニバーサルな社会保障制度に移行する方が、コスト効率も良く優れたアプローチになるだろう、と語る。

マジズープ氏はPMTベースの支援システムについて、「こうした制度は、導入コストが非常に高くなることが多く、結果的に受給者の手に渡るお金は少なくなってしまう」と指摘した。

もっとも、世銀が反貧困プログラムの技術的評価を委託した国際食糧政策研究所(IFPRI)の研究者シカンドラ・クルディ氏は、ユニバーサルな社会保障のための財政的余裕がない諸国にとって、アルゴリズムによる手法が合理的な選択肢になると主張する。

「あらゆる人を把握するのは不可能で、対象選定について何らかの判断が必要だと認めるのであれば、PMTはそのための公正な方法と言える」とクルディ氏は述べつつ、政策担当者としては、それが「技術官僚にとっての万能薬」ではないという認識を持つべきだと続けた。

当局者らは、こうした仕組みのプラス面を強調する。

世銀はある声明の中で、ヨルダンのタカフル制度により、2019年から2021年にかけて、不平等と貧困がそれぞれ0.7%、1.4%改善されたと述べている。

ヨルダンによる給付件数は地域で最大であり、世銀の今年6月の報告書によれば、2023年には22万人が対象となったという。

カラック市のサレム・アリさん(43)は、2020年にタカフル給付を申請し、それ以来ずっと恩恵を受けていると語る。

アリさんの家庭では現在月85ヨルダン・ディナール(約1万8000円)を受給している。アリさんはこれで食費や光熱費といった必要不可欠な出費を賄っている。

「何もないよりはましだ」とアリさんは言う。「子どもたちはまだ学校に通っているから、助かる。私には他にまったく収入がないから」

(翻訳:エァクレーレン)

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