[上海/香港 6日 ロイター] - 今年4月、米アップル (O:AAPL)のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」からアンドロイド機種への買い替えを検討していた中国の学生、アーロン・フアンさん(23)にとって、どのブランドが最も積極的に販売攻勢を仕掛けてきているかは一目瞭然だった。
中国通信機大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]と同社製品を応援する小売店舗の販売促進キャンペーンが街中にあふれていた。米国がファーウェイを不当に攻撃していると伝える国内メディアにも影響を受けた、とフアンさんは言う。
「選ぶならファーウェイしかないと思った」
ファーウェイは米政府から米国製部品・ソフトウエアの禁輸措置を課されて海外需要が急減し、国内市場への依存をさらに強めている。同社製品はもとより国内人気が高く、そこに宣伝攻勢や草の根の愛国心が加わって絶大な効果を発揮するようになった。
調査会社カナリスによると、第2・四半期にはファーウェイ製スマホの中国出荷数が前年同期比で3割強も急増し、市場シェアは10.6パーセンテージ・ポイント拡大して過去最高の38%に達した。一方で国内の競合他社やアップルのスマホ出荷数は急減した。
関係筋によると、ファーウェイは業界団体に示している国内の販売目標を引き上げた。
他の関係筋によると、従業員は現在の戦略を「戦闘モード」と呼ぶ。アップルショップのような「体験センター」型店舗を含め、新規店舗の開設も強化。中国南部の本社近くで先月同センターがオープンしたのに続き、来月は深セン市のハイテク地区である南山区でより大きなセンターが開店する。
アナリストによると、同社は他地域で売れ残ったスマホ在庫を中国に移送しているほか、欧米での販売減を補うため、異例の値下げに踏み切る例まで見られる。
同社はマーケティング、在庫管理戦略、中国の販売目標についてコメントを控え、愛国心を利用するつもりはないとの声明を繰り返し示した。
<宝くじとカエルのから揚げ>
ファーウェイは、スマホ購入代金の分割払いで利息を免除したり、「P30」、「メイト」などの高級機種が当たるくじを導入するなど、さまざまな販促活動を展開中だ。国内の家電小売りや零細企業も、愛国心から同社に手を差し伸べる。
上海でレストランを営むファン・シャーさん(38)は、ファーウェイと米政府の紛争を報道で見て、顧客への特別サービスの提供を思いついた。
「4人以上のお客さまがファーウェイ製スマホをお持ちのテーブルには『コウテイウシガエル』の一品を無料でサービスいたします」。コウテイウシガエルとは、看板メニューのカエルのから揚げで、料金は通常88元(約1300円)だ。
カナリスのデータによると、ファーウェイ製スマホの海外販売は第2・四半期に前期比28%も減少したが、本格的な影響が現れるのはこれからだ。
トランプ米政権はファーウェイ製品がスパイ活動に利用されているとして、同社と取引する米企業に特別認可の取得を義務付けた。ロス商務長官は7月30日、認可申請した企業への回答を8月第2週にも発表すると述べた。
禁輸措置によってファーウェイは米グーグル (O:GOOGL)の基本ソフト(OS)アンドロイドを利用できなくなる可能性があるため、独自OS「鴻蒙(Hongmeng)」の開発を加速させている。共産党機関紙の人民日報系の環球時報によると、第4・四半期には鴻蒙を搭載した廉価版スマホを発売する可能性がある。
ファーウェイはコメントを控えた。同社は以前、鴻蒙はIOT向けに設計したもので、スマホに関してはアンドロイドを優先するとしていた。
米国の禁輸措置が始まる前からファーウェイは中国国内で躍進していた。500─800ドルの高級機種市場に打って出て、高性能カメラを売りにアップルなどから顧客を奪った。
カナリスのアナリスト、モー・ジャ氏は、ファーウェイの戦略を「爆撃」に例える。「あらゆる分野で顧客に複数の選択肢を提供している。どの他社ブランドもかなわない」
競合他社は辛酸をなめている。第2・四半期の中国販売台数は、小米(シャオミ) (HK:1810)が前年同期比20%減、ビボは19%、オッポは18%、それぞれ減少した。アップルは14%減で、アナリストや中国の消費者によると米中貿易戦争の激化によってさらに打撃は大きくなりそうだ。
シャオミ、アップル、オッポ、ビボはコメントを控えた。
ただ、ファーウェイも米国製部品・ソフトの代替に苦心する可能性があるため、国内販売は無傷では済まないかもしれない。
カウンターポイント・リサーチの調査ディレクター、ジェームズ・ヤン氏は「元のサプライチェーンが失われれば、開発のスピードが減速し始めるかもしれない」と語った。
(Brenda Goh記者 Sijia Jiang記者)