[東京 29日 ロイター] - トヨタ自動車 (T:7203)が28日、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実証実験として進めてきた「my route(マイルート)」の本格展開に乗り出した。自動車の所有から利用への動きが進む中、トヨタは「自動車をつくって売る会社」から、移動に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティカンパニー」への転換を目指している。「マイルート」はその試金石となる。
<新たな収益の芽>
「マイルート」が提供するMaaSは、スマートフォンのアプリ利用者が、電車やバス、タクシー、レンタカー、カーシェアなど多様な移動手段を組み合わせ、目的地までの最適なルートを検索したり、乗車予約・決済ができたりするサービス。
ルート周辺の店舗・イベント情報を提供するほか、自動車メーカーらしい情報も活用する。例えば、道路の渋滞状況によってバスの到着時間が変わることから、道路状況を反映した交通手段や最適なルートを提案することで、既存の経路検索サービスとの差別化を図る。 トヨタは昨年11月から西日本鉄道(西鉄) (T:9031)と福岡市で「マイルート」の実証実験を行ってきたが、今回はサービス提供地域を北九州市にも広げ、新たに九州旅客鉄道(JR九州) (T:9142)が参画した。 トヨタがMaaSに取り組むのは、乗用車が今までのようには売れなくなる時代の到来に備え、新たな収益の芽を育てるためだ。
<プラットフォーマーとして存在>
自動車メーカーとしてレンタカーやカーシェアのサービスと車両を提供する以外にMaaSに組み込めそうなのは、観光地や駅から自宅までの近距離移動用のキックボードや車いすなど超小型電動モビリティーだ。
SBI証券の遠藤功治企業調査部長は、超小型モビリティーは「MaaSの布石になり得る」とみている。トヨタは来年冬ごろに電動キックボードのような立ち乗り型、21年に座り乗り型と車いすに連結できるタイプの超小型モビリティーを投入する予定だ。
トヨタはすでに超小型電気自動車「iーROAD(アイ・ロード)」などのシェアサービス実験も展開しており、「マイルート」での超小型モビリティ―の活用も「当然、検討していく」(担当者)という。
超小型モビリティーの販売価格は乗用車に比べてケタ違いに安く、従来事業の規模に育てるのは容易ではない。PwCコンサルティングの早瀬慶パートナーは、トヨタに限らず、どの自動車メーカーにとっても今後は「オペレーターやプラットフォーマーとしてのビジネスモデルが不可欠」と話す。
アプリの利用は無料とする一方、トヨタは「マイルート」のプラットフォームや決済システムを開発・運営し、収益の機会を探る。パートナー企業の西鉄やJR九州からプラットフォーム利用料を得て、同企業の要望に合わせて1日乗車券など「マイルート」でのサービスを開発する。独自の電子決済手段「トヨタ Wallet」やレンタカー・カーシェアのサービスも連携させる。
<社会課題解決、顧客利便性の視点が鍵>
早稲田大学ビジネススクールの根来龍之教授は、「マイルート」の本格展開を、トヨタが標榜するモビリティカンパニーへの「転換に向けた一歩になる」と評価した。「顧客行動の分析に不可欠な独自の電子決済手段を組み込んだ上、自動車メーカーが交通事業者を巻き込むことに成功した」からだ。日本では特に、JR九州など「各地域の交通機関と提携しないとMaaSへの参入は困難」(輸送業界幹部)とされる。 トヨタは日本の各都市で今後、「積極的に」(広報)順次展開していく構えだが、具体的な時期は示していない。根来氏は「全国展開には課題がある」と指摘。一部のJRや私鉄は自らMaaSを主導すべく他の地域ですでに同様のアプリを実験しており、「トヨタのサービスには簡単にのってこないかもしれない」とみる。 MaaSをめぐる競争は激化している。交通事業者に加え、新興企業の参入も相次ぐ。世界初のMaaSアプリとして知られるフィンランドの「Whim(ウィム)」も12月から千葉・柏の葉で実験的にサービスを開始。ウィムを運営するMaaSグローバル社には三井不動産 (T:8801)が出資しており、来年初めにサービスを本格展開する予定だ。 PwCの早瀬氏は、MaaSに挑む自動車メーカーに必要な視点として「自動車をどう使ってもらうかという発想ではなく、何が社会課題で、いかに解決していくか」を挙げる。 トヨタは「マイルート」とは別に、ソフトバンク (T:9434)と設立した「モネ・テクノロジーズ」でもMaaSの事業化に向け動いている。モネには多業種から420社(10月末時点)が参加している。モネとも合流すれば、取り組みに広がりが出そうだ。「マイルート」担当者は「顧客の利便性向上のため、あらゆる可能性、連携を検討していきたい」と話している。
(白木真紀 編集:平田紀之 石田仁志 佐々木美和)