[上海/北京 11日 ロイター] - 中国では新型肺炎の死者が1000人を突破した。10日から企業や工場が再開したが、感染拡大への懸念から本格稼働には至っていない。長期にわたる「マヒ状態」の影響で、企業の間では資金繰りに支障をきたしたり、人員削減の動きも出始めた。
中国国家衛生健康委員会(NHC)は11日、新型コロナウイルスによる肺炎で10日に国内で108人が死亡したと発表した。1日の死者数としては、12月に湖北省武漢市でウイルスが発生して以来の最多を更新した。死者数の累計は1016人と、1000人を突破した。
国内の感染者数は4万2638人となった。ただ新たに感染が確認されたのは2478人と、前日の3062人から2割近く減少した。1日の感染件数が前日から減少したのは、ここ2週間で2回目となる。
しかし世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は10日、中国に渡航歴のない患者からの感染について「懸念される症例」が出ているとし、「より大きな火事を引き起こす火花になり得る」と指摘した。
WHOと中国の保健当局によると、中国本土以外の24カ国・地域で319件の感染例が確認されている。中国本土以外の死者は2人で、香港とフィリピンで報告されている。
湖北省保健当局の11日の発表によると、10日に省内で確認された新たな感染例は2097人で、死者は103人だった。
湖北省政府は、同省衛生健康委員会の張晋・党組書記と劉英姿・主任をともに解任した。国営の中国中央テレビ局(CCTV)が伝えた。理由は明かされていない。
約6000万人の人口を擁する同省は、空と陸の交通など事実上の封鎖状態が続いている。
世界銀行のマルパス総裁は10日、新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、中国の対応を支援するため、公衆衛生面などにおける技術的な援助を行っていることを明らかにした上で、同国向けの新たな融資は検討していないと述べた。
中国国家発展改革委員会の当局者は11日、国内のマスク工場は生産能力の76%で稼働しているとし、増産には労働者の職場復帰が重要との見方を示した。そのうえで、マスクメーカーが直面している資金繰りや原材料調達の問題は国が解決すると述べた。マスクの輸入を強化する考えも示した。
<壊滅的な影響も>
中国の政府系シンクタンク、国家金融・発展実験室(NIFD)の幹部は、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大は同国の2020年国内総生産(GDP)成長率を最大で1%ポイント押し下げる可能性があるとの見方を示した。
銀行関係筋によると、中国では300を超える企業が新型コロナウイルスの影響を和らげるため、少なくとも574億元(82億ドル)の銀行融資を申請している。
融資を求めているのは新型ウイルス対策に関与している企業やウイルス感染拡大によって大きな打撃を被っている企業で、ネット出前サービスの美団点評 (HK:3690)やスマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ) (HK:1810)、配車サービスの滴滴出行、 顔認証技術のメグビー・テクノロジーズ、セキュリティーソフト最大手の奇虎360科技も含まれるという。
広告などを手掛ける新潮傳媒は10日、従業員の10%余りに当たる500人の人員削減を実施したと発表。外食チェーンの西貝は、従業員約2万人の給与支払い方法について懸念を示した。
中国当局は11日、すでに発表した金利引き下げや財政出動に加え、雇用安定に向けた措置を打ち出すと表明した。
しかし、野村のアナリストらは調査ノートで、労働者の職場復帰を促し、交通量を回復させるための措置は、新型コロナウイルスが「1─2月に中国経済に壊滅的な影響を与えた」ことを示唆していると分析。
「世界の市場がこれまでのところ、混乱の大きさをかなり甘く見ていたかもしれないと、われわれは懸念している」とした。
JPモルガンのアナリストはリポートで「新型コロナウイルスの感染拡大は中国経済のダイナミクスを完全に変えた」と指摘し、第1・四半期の成長見通しを再び下方修正した。
一方、アジアの投資銀行は取引案件が枯渇する可能性に身構えている。複数件の資産入札が延期されるか再評価の対象となり、中国で新規株式公開(IPO)に向けた動きが鈍っているからだ。
香港在勤の米投資銀行関係者は「何も起きていない」と嘆いた。
<米で新たな感染者>
英航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は中国本土への航空便の運航を3月末まで停止すると発表。フィリピンでは、政府が外国人対象の中国からの入国禁止措置を台湾に広げたことを受け、国内航空各社が台湾行きの便を欠航にした。
タイは11日、米カーニバル (N:CCL)傘下ホーランド・アメリカのクルーズ船「ウエステルダム号」について、乗客の下船を禁止したと発表した。乗客の感染は確認されていない。ウエステルダム号は日本やフィリピンなどでも入港を拒否された。
米国では13人目の感染がカリフォルニア州で確認された。米疾病対策センター(CDC)が10日明らかにしたところによると、感染が確認されたのは、ウイルスの発生源とされる中国湖北省武漢市から退避し、カリフォルニア州の米軍基地で強制隔離されていた成人。武漢から退避した約800人の米国人で感染が確認されたのは今回が初めて。