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アングル:急速な米株の戻りに懐疑論、楽観の行き過ぎ戒める声も

発行済 2020-04-20 19:32
更新済 2020-04-20 19:36
© Reuters. アングル:急速な米株の戻りに懐疑論、楽観の行き過ぎ戒める声も

Sinéad Carew

[19日 ロイター] - 米経済指標が軒並み記録的な悪化を示しているにもかかわらず、米株式市場は急反発している。連邦準備理事会(FRB)の大規模な金融支援措置に加え、米経済活動の早期再開や新型コロナウイルス薬開発への期待が拡大、そこに相場上昇の乗り遅れを恐れる投資家心理が重なった。しかし、誰もが反発局面で買いに追随しようとしているわけではない。

S&P総合500種指数 (SPX)は17日終値が2874となり、3月23日に付けた直近安値から28%を超える上昇をみせた。2月19日終値の史上最高値をわずか約18%下回っているだけだ。FRBが景気悪化の長期化阻止に本腰を入れ、米政府による2兆3000億ドル規模の経済対策も打たれたことで、相場上昇に拍車が掛かった。

投資家やアナリストは楽観姿勢を強めている。ゴールドマン・サックスは最近、FRBと議会による前代未聞の金融財政対策によって、米景気の完全崩壊の見通しは消えたと指摘。S&P500種が2000まで下げるとした、それまでの短期予想はもはや考えにくくなったと表明した。

モルガン・スタンレーのストラテジスト、アンドルー・シーツ氏も調査ノートで、米景気の落ち込みは世界金融危機と比べ「さらに深刻だが、当時よりは長期化はしない」と予想。ただ、米景気はこの第2・四半期に最悪期を迎えるとした。その場合は株式と債券の相場が、これに先んじて安値を付けにいくとみるのが妥当だという。

S&P500種は3月23日に、2月19日の史上最高値から35%下げた。それ以降、米株式市場のムードは急速に変わった。ただ、相場はその後も乱高下。その日以降、10営業日で1日当たりの上げ幅が1%を超えた。3月24日には9.4%もの値上がりを記録。一方、1日当たりの下げ幅が1%を超えたのも6営業日あり、最も大きく下げたのは4.4%安になった4月1日だった。

他のリスク資産にも追い風は吹く。バンク・オブ・アメリカの17日発表のデータによると、投資不適格級(ジャンク)債市場は15日までの1週間の資金流入が105億ドルと過去最多を記録した。

こうした市場の楽観論とは裏腹に、米実体経済を示す数字は悲惨だ。16日の発表によると、新規失業保険給付申請件数は4週間で2200万件と過去最多になった。4月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数は1980年以来の低水準。3月の住宅着工件数は36年ぶりの大幅な落ち込みだった。3月の小売売上高も記録的な落ち込みとなり、3月鉱工業生産は1946年来の大幅なマイナスを示した。

このため一部の投資家からは、企業収益など基礎的諸条件にもっと注目すべきだとの声も上がる。

リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズのリチャード・バーンスタイン最高経営責任者(CEO)は、市場の見立ては外れることが多いと指摘。現状を弱気市場の最初の局面にすぎないとしたうえで、最終的には、短期的なテクニカル要因や上げ相場に乗り遅れまいとする焦りではなく、経済の基礎的諸条件が相場の方向性を決めると主張する。

オンライン取引会社IGのアナリスト、クリス・ボーシャン氏によると、投資家は、株式市場の反発力の強さに困惑し続けている。株式市場は明らかに新型コロナ危機の深刻さが弱まりつつあると判断しているのだが、企業の四半期決算発表が本格化する週になれば「こうした値上がりはもっとハードルに向き合うようになる」とみる。

シティグループの首席株式ストラテジストのトビアス・レフコビチ氏のリポートによると、市場心理がパニックからあまりに急速に立ち直っていることに困惑しているという。こうした動きはあまり信用できるものではないし、投資環境は極めて変わりやすい状況にあるとしている。

同氏によると、リスクが払拭されるなら、FRBや議会の対策のような政策措置に市場が大きく反応するのも、もっともかもしれない。しかし、経済の基礎的諸条件に注目したいという。さらに、経済活動が再開すれば新型コロナ流行の第2波が起きかねないといった、見定めにくい問題が懸念材料だとも指摘する。

新型コロナの米感染者が天井を打ちつつあるかもしれないとの兆候にも、投資家は胸をなで下ろしている。17日には米ギリアド・サンエンシズ (O:GILD)のエボラ出血熱の治療薬候補だった抗ウイルス薬「レムデシビル」が、新型コロナ重症患者の治療に効果があったとの報道で、株式市場は上昇した。

アメリトレードの主席エコノミストのラッセル・プライス氏によると、政府の経済対策やコロナ治療薬の報道、感染者数の頭打ちの兆しなどは米株式市場について楽観的になるにはもってこいの材料だ。しかし、米景気が2019年末の状態まで回復するには6四半期から8四半期分の時間はかかると予想する。「経済が加速し始めるのがどれだけ大変かを市場は完全に受け入れていない。どれぐらいかかるかを市場は認識していないように見える」と警告した。

バーンスタイン氏は、新型コロナの発症が最初に報告された中国と同じような経緯を米国がたどるとすると、米経済の短期の先行きは良くないと話す。中国の景気回復が極めてなだらかだからだ。感染の発生から回復への時期をみると、中国は米国の50日ほど先を行っている。

テーミス・トレーディングのトレーディング部門共同マネジャー、ジョー・サルッチ氏も米株高に懐疑的だ。「FRBと戦うべきではないし、投資家が追いかけてる上昇機運も目の前にある。しかし、それを経済の基礎的諸条件が正当化しているかというと、まったく違う」という。

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