[メルボルン 21日 ロイター] - セルビア政府は、資源大手リオ・ティントのリチウム開発許可を環境面の懸念から取り消したと発表した。リチウム生産で世界10強入りを目指していたリオにとっては大きな痛手となるだけでなく、世界的なリチウム不足が深刻化し、電気自動車(EV)の展開にも影響が出るとの声が出ている。
リオは昨年7月、EV向け電池の需要増加を受け、セルビア・ジャダールのリチウム事業に24億ドルを投資する意向を表明。ジャダールはリオにとって唯一のリチウム開発事業。ただ今週、許認可手続きの遅れを理由に初生産時期の予想を1年延期し2027年としていた。
セルビアのブルナビッチ首相は記者会見で、開発許可の取り消しは、環境団体からの要請を受けたためと説明した。
リオはセルビア政府の決定を「極めて憂慮」しているとし、決定の法的根拠を検証していると述べた。
豪政府は、セルビア政府の決定を遺憾とした。
クレディスイスのアナリスト、サウル・カボニク氏は、ジャダール鉱山について「ここ半年の間に反対の声が高まった」と指摘。政府が許可を取り消せばリオ株1株あたり2ドル相当のリスクがあると少し前から予想していたという。
ジャダール鉱山は、フル操業すれば電池級の炭酸リチウムの年間生産能力が5万8000トンと、生産量で欧州最大のリチウム鉱山になると予想されていた。
スタンダード・チャータードのグローバル・メタル&マイニングM&A部門の責任者サム・ブロドブキー氏は「ジャダールほどのプロジェクトは多くない。ジャダールなどの開発ができなければ、西側諸国は自前のサプライチェーンを持てなくなる」と述べ、リチウム、その他重要な電池資材の不足が深刻化すると予想した。
専門家の間では、世界的なリチウム不足が少なくともあと3年続くと予想されていた。ジャダールの開発許可取り消しで、不足状態がさらに長期化することになる。
クレディスイスのカボニク氏は「今やリチウム供給がEV展開のペースの鍵を握る局面にきている」と述べた。
米CMEのリチウム先物は20日、1キロ当たり38ドルと最高値を付けた。昨年5月の取引開始から171%上昇している。
セルビアでは、同国出身のトップテニスプレーヤー、ノバク・ジョコビッチ選手が新型コロナウイルス対策の入国規定を巡ってオーストラリアから国外退去処分を受けたことで、対オーストラリア感情が悪化。
ジョコビッチ選手は昨年12月、ソーシャルメディア(SNS)に地元の反資源開発運動の写真を投稿し「クリーンな空気」への支持を示していた。
セルビア政府の決定を受け、SNSではリオがセルビアから国外退去になったとのコメントが投稿されている。