[東京 22日 ロイター] - 日本製鉄の橋本英二社長は22日、記者団の取材に応じ、2023年度の国内粗鋼生産が今年度の9000万トンから大きく回復し、9500万トンになるかは予断を許さないと述べた。ただ、鉄鋼の販売量が増えなくても利益が出る体質に転換しており、実力ベースで6000億円以上の連結事業利益は来年度も達成できるとの見通しを示した。
橋本社長は、来年度の国内粗鋼生産について、中国次第となる海外鉄鋼需要が底打ちするかどうか、半導体不足などで生産が落ちた自動車を中心とした内需が回復がするか、アジアの在庫水準が戻るかという3点がポイントになるとし「3つともポジティブに言える状況ではない」と指摘。今年度見込まれる約9000万トンに対し「大きく回復して9500万トンになるかどうかは、予断を許さない」と述べた。
国内粗鋼生産は、21年度は9563万トンだった。
ただ、同社は構造改革を進めてきた結果、販売量が伸びずとも利益が出せる体質に変化している。橋本社長は「実力ベースで6000億円以上の連結事業利益は来年度もあげられる」との見通しを示した。
<原料、権益は「調達」から「事業」へ>
これまで少額出資だった上流権益については「単なる調達から、今後は事業としてやっていく」と述べた。
鉄鋼事業で脱炭素を進めるにあたって、水素で鉄を還元する際に「パートナーが必要。鉄鉱石があり、水素を作るプロジェクトがあり、水素プラントにグリーン電力が来るという条件が揃い、日鉄は還元鉄を事業としてやる。水素もジョイントベンチャーでやるようなことになるだろう」と述べ、上流権益は、脱炭素の進捗と併せ、事業としてやる必要性が出てくると指摘した。
物価高の下で注目されている賃上げについては、人材の確保などの面からも「これから以降、賃金を抑えることは経営にとってリスク」と指摘。企業間の物価は下がることはないとの見通しを示し「最終消費者の賃金が上がらないと循環しない。賃金を上げていくことが経営にとって必要」と述べた。
鉄鋼業界は2年に1度の賃金改定を行ってきたが「時代背景を考えると適さない。労使で話し合いが必要」と述べ、見直しを検討する考えを示した。
日銀は20日の金融政策決定会合で従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大することを決めた。橋本社長は、日銀の決定について「これだけで大した影響があるとは思っていない」と述べた。ただ、ドルが一時130円台まで円高に振れたことに触れ「1ドル115―120円があるべき水準。極端な円安が是正されたのは良い方向」と評価した。