Sheila Dang Riniki Sanyal
[10日 ロイター] - 多数の犠牲者を出したイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃後、実業家イーロン・マスク氏が所有するソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)に対し、欧州連合(EU)が憤っている。誤解を与える主張や加工された画像が急速に広まっているからだ。
偽情報の取り締まりを難しくしている要因の1つは、マスク氏が今年行った運営規程の変更により、X上の偽情報の全貌を追跡するのが難しくなったことだと、ソーシャルメディア研究者らはロイターの取材に語った。
偽情報の発信元や拡散状況を調べている研究者らの話によると、Xではリアルタイムの事象に関するキーワードやハッシュタグ(検索目印)などを自動的に追跡できなくなっている。昨年10月にマスク氏が旧ツイッターを買収する前まで、学界は無料のデータツールにアクセスできていたが、それが遮断されたためだ。
アトランティック・カウンシル傘下のデジタル・フォレンジック研究所(DFRラボ)のレジデントフェロー、ラスラン・トラッド氏は、こうしたツールがないため、研究者は何千ものリンクを1つ1つ手ずから分析する必要があると述べた。
一方、Xに偽情報問題について尋ねたところ、ガザ周辺におけるイスラエルとハマスの戦闘に関しては500件余りの「コミュニティノート(誤解を招きそうなコンテンツにユーザーが背景情報を付記できる機能)」が投稿されていると回答した。
さらにXは9日、新たに開設されたハマス関係のアカウントを削除し、暴力的な言説や憎悪に満ちた行動などを共有する何万もの投稿に規制措置を講じたと表明した。
Xとメタのフェイスブックで拡散した虚偽情報として、米政府がイスラエル向けに80億ドルの軍事支援を承認したかのような文書が出回ったことが、ロイターのファクトチェックチームの報告で分かっている。
同チームによると、ハマスの戦闘員が誘拐された子どもを連れているように見せかけた動画や、米国人歌手ブルーノ・マーズさんのコンサート映像に、ハマスに攻撃されたイスラエルの音楽祭という間違った説明文が付けられた例もある。
<厳しい視線>
偽情報はフェイスブックやTikTok(ティックトック)を含めて全ての主要ソーシャルメディアで広がっているが、規制当局が最も厳しい目を向けているのはXのようだ。
10日にはEU欧州委員会のブルトン委員(域内市場担当)がXに書簡を投稿し、違法コンテンツや偽情報への迅速な対応をマスク氏に要請した。EUはプラットフォームに世界で最も厳格な偽情報取り締まりを義務付けている。
マスク氏はブルトン氏に「あなたが示唆するX上での違反行為をどうぞリストアップしてもらいたい。そうすれば人々が見ることができる」と反論した。
マスク氏が実施した規定変更により、Xはユーザーが料金を支払えばアカウントが本物だと認証を受けられるようにしており、収益を得られるプログラムに基づき広告収入の一部をユーザーが手に入れる仕組みも導入した。
スタンフォード・インターネット・オブザーバトリーの調査マネジャー、レニー・ディレスタ氏は、これで有料アカウントが挑発的、ないし偽の主張を広めてフォロワーを増やし、収入を得ようとする動機が生まれたと指摘する。
ニュースサイトの信頼性を格付けしているニュースガードのジャック・ブリュスター氏は「(Xで)これら手法を用いている一部アカウントは情報拡散のために最近作られたもので、ガザ周辺の戦闘について偽情報を拡散している」と述べた。
米紙ワシントン・ポストによると、最新の戦況だと虚偽の主張を流したアカウントのフォローをマスク氏自身がX上で推奨し、その後に投稿を削除する事態も起きている。
ブリュスター氏や、アラブセンター・ワシントンの副エグゼクティブディレクター、タマラ・カルーブ氏によると、各ソーシャルメディアの中でも偽情報のまん延ぶりはXが最も際立っているようだという。
<難しい線引き>
ソーシャルメディア全体としても、ユーザーを守るためのコンテンツの是正と、メディアや捜査当局が民間人の犠牲者を追跡するに当たって役立つリアルタイム情報の拡散を認めることについて、どこで線を引くかという難題に直面している。
ニューヨーク大学のソーシャルメディア・政治センターのソロモン・メッシング教授は、たとえ選挙のようにプラットフォーム側があらかじめ対応を準備できるイベントでさえ、この線引きは難しいと説明する。
メッシング氏は「まして予想外のテロリストによる攻撃、特に今回のように膨大な動画が流れている場合、ずっと困難になる」と話す。
カルーブ氏は、Xでは誤解を与える言説を何千人ものユーザーが目にした後で、コミュニティノートが付加されても、偽情報の是正効果は薄くなると嘆く。
Xは9日、コミュニティノートはコンテンツが登場して数分以内に出現する傾向があると投稿。あくまでリアルタイムで情報を見ることこそが公共の利益にかなうと主張した。