Jeffrey Dastin
[ダボス(スイス) 17日 ロイター] - 15日に開幕した今年の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)は、人工知能(AI)の前途有望さを謳う華々しい横断幕がメインプロムナード沿いに掲げられるなど、AIが会場を席巻している。しかし会議に参加した企業幹部は、初期的な試用版の段階にあるAI技術をいかに収益化するかに頭を悩ませている。
米新興企業オープンAIが開発した対話型AI「チャットGPT」の登場でベンチャー投資業界には熱狂が巻き起こり、ハイテク大手は2022年後半以降、経営の軌道を急激に変えた。
しかし今年のダボス会議に出席した複数の企業トップは最新の生成AIについて、不明な点が多いと慎重な見方を口にした。
インターネットセキュリティー企業クラウドフレアのマシュー・プリンス最高経営責任者(CEO)はロイターのインタビューで、今後数カ月以内にAIが「期待外れ」のようにすら感じられるときが来るかもしれないと話した。「すごい試用版を作れるけれど、真の価値はどこにあるのか分からないと、誰もが言っているようなものだ」と冷静な見方を示した。会議に参加している企業トップの間では、プリンス氏と同じような見方が出ている。
チャットGPTの急成長はある意味、極めて異例だ。
22年11月のサービス開始からわずか2カ月で推定1億人のユーザーを獲得。史上最も急成長したアプリの一つとなり、生成AI技術は一気に一般消費者に普及した。
ただ、AIビデオ生成スタートアップ、シンセシアのビクター・リパーベリCEOは、チャットGPTによって生成AI技術が消費者にとって身近なものになった点は認めつつ、「企業側はまだ全く準備が整っていない」とインタビューで語った。
リパーベリ氏が挙げた問題の一つは、AIがもっともらしく誤情報を回答する「ハルシネーション(幻覚)」を食い止める明確な道筋がないこと。科学者はチャットボットが回答を引き出すことができる場所を制限する手法を開発しているが、企業トップはこうしたリスクを取りたくないかもしれない。
IBMの欧州・中東・アフリカ部門を率いるアナ・パウラ・アシスは氏、チャットボットAIによる人間のバイアス(偏見)の再現阻止と規制を課題に挙げた。顧客はこうした課題の解決を規制やコンプライアンスの枠内でどのように実現するかについてまだ強い懸念を持っているという。
コンサルティング会社ボストンコンサルティンググループが経営幹部1400人を対象に実施した調査では、生成AIが最近の行き過ぎたブームの先に向けて一歩踏み出すのを待つか、もしくは限定的なトライアルやパイロット版に展開をとどめているとの回答が約90%に達した。
マイクロソフト、アルファベット傘下のグーグル、アマゾンなどハイテク大手は最新AIの試行を多くの企業に持ち掛けている。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは17日の会議で、AIは生産性を向上させ、科学そのものを加速させる可能性があるとバラ色の未来を描いた。
しかしAIを企業の売り上げや利益につなげる道筋はまだ不透明なままだ。
<現実的な活用方法>
AIはマーケットを見出そうとする取り組みが広がり、さまざまな分野で活用が検討されている。
企業向けに特化したAIスタートアップとして注目を集めるコーヒアは営業担当者の支援を収益経路の一つと位置付けている。エイダン・ゴメスCEOは「AIは営業チームの生産性を高めるだろう」と述べた。
一方で医療分野は課題が多い。AIによって医師はメモを取るスピードを上げることができるが、医療行為の自動化は人命を危険にさらしかねず、AI向きではないとゴメス氏は指摘。「われわれは人間のサポートに集中すべきで、医師をAIに置き換えたり、チャットボットの医師を登場させたりするべきではない」との立場だ。
ノバルティスのヴァサント・ナラシマンCEOは、マイクロソフトと協力し、規制当局への提出書類の作成を支援するAIの開発に取り組んでいると明かし、AIが取り組む次の分野は薬剤設計になるとの見通しを示した。
インドの大手風力・太陽光発電事業者、BLPグループのテジプリート・チョプラCEOは、AIチャット技術を取り入れる用意が整っているが、それは問題のない英語で文章を書くための内部利用にとどまると述べた。
今年は世界各地で大型選挙が行われる「選挙イヤー」に当たるが、AI企業にとって選挙は鬼門だ。
偽情報キャンペーンでのAI使用についてコーヒアのゴメス氏は、同社のポリシーはなりすましを禁止していると説明。シンセシアのリパーベリ氏によると、同社はAIビデオプラットフォームを通じた政治的コンテンツの作成を禁じている。オープンAIも生成AIを悪用したなりすましを認めていない。
ITサービス大手ウィプロのエグゼクティブ、スリニ・パリア氏は、今年のダボス会議では暗号資産(仮想通貨)が姿を消し、その穴を埋めたAIがはやし立てられていると指摘。「AI、AI、またAI。ご存知の通り、そんな状態だ」という口調には皮肉も込められている。