[台北/上海 26日 ロイター] - アップル (O:AAPL)のiPhone製造で、中国勢の存在感が高まっている。最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業 (TW:2317)は危機感を強め、創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏の旗振りでタスクフォースを立ち上げた。
3人の関係筋が明らかにした。
ホンハイが警戒するのは、立訊精密工業 (SZ:002475)。国際的な知名度は低いが、中国本土に本拠を置く企業としてiPhone製造第1号になろうとしている。
関係筋によると、ホンハイがタスクフォースを立ち上げたのは昨年。立訊精密工業の技術や拡張計画、採用方針、中国政府機関から支援を受けているのか、調べている。
米中貿易戦争や新型コロナウイルス危機で世界のサプライチェーン(供給網)は強い圧力を受けている。
関係筋は、立訊精密工業が台頭するのは時間の問題とし、中国が独自のサプライチェーン(供給網)を構築しようとするのは妥当で、立訊精密はその国策に沿っていると指摘した。
<赤い供給網>
アナリストによると中国政府は、アップルなどグローバル企業の製造を中国企業が受託する「赤い供給網」を国策として強く推進している。
台湾当局系のシンクタンク、マーケット・インテリジェンス・アンド・コンサルティング・インスティチュート(MIC)は9月のリポートで「赤い供給網の台頭に直面し、台湾製造業が(中国企業に)取って代えられるという脅威が高まり続けている」と指摘した。
立訊精密工業はもともと、アップルのワイヤレスイヤホン「AirPods」の製造で知られていた。同社は7月、台湾のiPhone受託製造会社、緯創資通(ウィストロン)から中国の2工場を取得した。
関係筋は、立訊精密工業は強力なライバルで、ホンハイは「完全に負かす」ため綿密に調査していると述べた。
開示資料によると、立訊精密工業は、グレース・ワン会長と兄弟のWang Laisheng氏が大株主。中国政府の投資会社、中央匯金投資有限責任公司が1.38%出資している。
立訊精密工業の財務報告を基にロイターが計算したところ、2016年から今年上半期にかけて政府から10億元(1億4880万ドル)を超える補助金を受け取った。その約半分は2019年に支給されている。
ホンハイはロイターに向けた声明で、指摘を受けたタスクフォースは「事実に基づいていない」指摘。「会議、その他一切の接触は行われていない。このほか経営陣が異例な行動をとったことはない」と述べた。
立訊精密工業はコメントを差し控えた。アップルにコメントを求めたが、返答はない。
<買収でアップル「バリューチェーン」に>
立訊精密工業は、2004年にグレース・ワン会長が創設。ワン氏は7月、自分がかつて台湾のアップルサプライヤー、フォックスリンク (TW:2392)で働いていたと台湾メディアに語っている。フォックスリンクは、郭台銘(テリー・ゴウ)氏の弟、郭台強氏の会社だ。
立訊精密工業は、規模が小さい部品メーカーを買収しながら、アップルの「バリューチェーン」の道を歩む。2011年に地元企業を買収し、iPhoneやMacbook向けの接続ケーブルの製造から始まった。
アップル関連事業が順調に進むに連れて売上高も増加、2019年は前年比75%増の625億元となった。
その売上高はホンハイの約5%に過ぎないものの、投資家は立訊精密工業の将来性に着目、時価総額はホンハイの390億ドルを200億ドル程度上回っている。
モーニングスター・リサーチによると、立訊精密工業の売上高の58%はアップル関連だ。
立訊精密工業にとって、ウィストロンの中国工場取得は、最も重要な買収だ。富邦リサーチは、これにより、向こう5年でiPhone生産の最大30%を立訊精密工業が握ることも可能とみる。
関係筋によると、ホンハイから人材の引き抜きも積極的にしている。ホンハイ幹部に、台湾から中国への家族の引っ越し費用として前金で50万元(7万5009ドル)を提示したケースもあったという。
(Yimou Lee記者、Josh Horwitz記者)