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焦点:ソーシャルメディア大手、「選挙イヤー」のフェイク対策が後手に

発行済 2024-01-13 07:48
更新済 2024-01-13 07:55
© Reuters.  既にインドネシア大統領選に絡んでディープフェイク動画(人工知能=AIにより生成される精巧な偽の映像)が流布されるなど、今年はソーシャルメディア上でこうした選挙に絡む誤情
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Rina Chandran

[11日 トムソン・ロイター財団] - 2024年は米国をはじめバングラデシュ、インドネシア、パキスタン、インドなど50カ国余りで国政選挙が予定される「選挙イヤー」に当たる。

既にインドネシア大統領選に絡んでディープフェイク動画(人工知能=AIにより生成される精巧な偽の映像)が流布されるなど、今年はソーシャルメディア上でこうした選挙に絡む誤情報やヘイトスピーチの増加が確実だ。

しかし、専門家によると、ソーシャルメディア運営大手の対応は、後手に回っている。

テック・グローバル・インスティテュートの創設者でプラットフォーム安全性の専門家のサブハナズ・ラシド・ディヤ氏は、ソーシャルメディア大手による最近の人員解雇、コンテンツ監視部門を縛る新ルール、誤情報の拡散を容易にするAIツールにより、貧困な国ほど大きな打撃を被る恐れがあると指摘。「前回の選挙以降、事態は確実に悪化している。プラットフォームの不正利用は一段と巧妙になったが、それに対処する資源は増えていない」とし、一般的にハイテク企業からの資源が及びにくい「グローバル・サウス」が特に影響を受けるとの見方を示した。

ステーブルディフュージョンなど生成AIツールの登場で、説得力のあるディープフェイクを安価かつ簡単に作成できるようになり、こうしたコンテンツが、有権者の間で誤解や混乱を引き起こすとの懸念が高まっている。

AIが生成したディープフェイクは既にニュージーランド、アルゼンチン、米国などで有権者を欺く目的で使用され、当局は対策に躍起だ。

今年6月に欧州議会選挙が行われる欧州連合(EU)はハイテク企業に対し、政治広告に表示を付け、広告費の負担者を明記するよう義務付けた。インドではIT規則により、誤った情報の流布が明確に禁止されている。

アルファベット傘下のグーグルは、ユーチューブを含む自社のプラットフォーム上で、AIが生成したコンテンツやデジタル加工された素材を使用した政治広告にラベルを付け、チャットボット「バード」やAIベースの検索が回答可能な選挙関連のクエリー(処理要求)を制限する。

フェイスブックなどを運営するメタ・プラットフォームズは、政治的なキャンペーンや広告主が同社の生成AI製品を広告に使用することを禁止する。

X(旧ツイッター)は選挙関連の誤情報への対策についてコメント要請に応じなかった。インドで禁止されているTikTok(ティックトック)も回答しなかった。

<現実世界で暴力招く>

ソーシャルメディア上の誤情報は、今年選挙が予定されている多くの国で、これまでにも選挙の際に大きな混乱を引き起こしている。

2月14日に大統領選を控えるインドネシアは、19年の選挙後、ソーシャルメディア上でデマや暴力の呼びかけが急増。その後の騒乱で少なくとも6人が死亡した。

2月8日に総選挙が予定されているパキスタンでは、18年の総選挙前にヘイトスピーチや誤情報がソーシャルメディア上で横行し、多数の死者を出す連続爆破事件が発生した。

ソーシャルメディア大手は、誤情報や偽情報に対処するため高度なアルゴリズムを開発したが「こうしたツールは地域ごとの微妙な違いや英語以外の言語の複雑さにより、有効性が制限される可能性がある」と、オクラホマ州立大学のヌウリアンティ・ジャリ助教授は話す。

さらに米大統領選、イスラエルとハマスの紛争、ロシアとウクライナの戦争といった世界的な出来事によって「他の地域の選挙準備に充てられるかもしれない資源が奪われ、注目度が低下する恐れがある」という。

調査会社デジタリ・ライトの最近の調査によると、フェイスブック上の政治広告は、日常的に誤表示されたり、免責事項や重要が詳細に記載されていなかったりしており、プラットフォームの検証が不十分なことが明らかになった。

<準備不足>

メタ、X、アルファベットはこの1年間にヘイトスピーチや誤情報を抑えるために策定した主要なポリシーを少なくとも17件撤回し、プラットフォームの健全性維持チームなどを対象に4万人以上を解雇したと、米国の非営利団体フリープレスは12月の報告書で指摘した。

法律専門家のノラ・ベナビデス氏は、この報告書で「24年には世界中で何十もの国政選挙が行われるため、プラットフォームの健全性を保証することがこれまで以上に重要になっている」と指摘しつつ「主要なソーシャルメディアは来たる選挙に対して全く準備ができていない」と不安を隠さない。

「違反コンテンツの規制に必要なポリシーやチームがなければプラットフォームの混乱が増幅し、有権者の政治への関与を妨げ、ネットワークが操作される機会が生まれて民主的な制度が侵食される恐れがある」と述べている。

© Reuters.  既にインドネシア大統領選に絡んでディープフェイク動画(人工知能=AIにより生成される精巧な偽の映像)が流布されるなど、今年はソーシャルメディア上でこうした選挙に絡む誤情報やヘイトスピーチの増加が確実だ。写真はアルゼンチンのミレイ大統領が率いる与党のソーシャルメディアチームを非公式に支援している、ブエノスアイレス州議会議員候補のロモ氏(27)。昨年8月撮影(2024年 ロイター/Agustin Marcarian)

一部の政府は、オンライン上の言論や表現を規制することで対応しようとしているが、こうした法律が導入されればソーシャルメディア上のコンテンツ監視が、過度に強まりかねないと専門家は懸念している。

非営利団体アクセス・ナウのアジア政策ディレクター、ラマン・ジット・シン・チマ氏は、準備こそが重要だとの考えを持つ。

ソーシャルメディア大手は選挙に先立って一般社会とのつながりを深め、現地言語で十分な情報を提供することを怠ってきたという同氏は「選挙イヤーを迎えてデジタルプラットフォームの重要性は高まっているが、選挙にまつわる問題に対処するための体制が整っておらず、被害の軽減策も透明性が確保されていない。非常に憂慮している」と不安を口にした。

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