FRBはインフレ期待をあまりに上手にアンカーしすぎており、アンカーを引き下げる必要があると考えている。このことはパウエルFRB議長らの最新の発言からも伺える。パウエル議長は忍耐強く政策運営に当たり、利上げやバランスシートの縮小を停止するとの考えを示し投資家を安心させた。
パウエル議長は上院銀行委員会で証言し、インフレ圧力は依然として弱まっていると認めたものの、現在の一時的な要因がなくなれば2%のインフレ目標に近づいていくとの見解を示した。
パトリック・トゥーミー米上院議員は、インフレ率が目標を下回っている期間を補うため2%を上回る水準に意図的にオーバーシュートさせようとしていることへの懸念をFRBへ示した。
パウエル議長は「我々の見解では、インフレ期待は実際のインフレの最も重要な推進力である」と述べた。FOMCは、インフレ率が好況時にしか平均2%にならず不況下ではそれを下回る状況になると思われないように、インフレ目標を信頼できるものにしたいと考えいる。トゥーミー議員は、1970年代のような高インフレに見舞われないように警告している。
2人のFOMCメンバーが、ニューヨークの金融政策会議の演説でインフレ目標のオーバーシュートに関して意見を述べた。
リチャード・クラリダFRB副議長は、FRBの政策枠組みを見直しする中で、インフレ目標は基本的な考慮事項の1つであると述べた。中立金利や自然利子率の低下によって、不況下におけるFRBの金融政策の余地は少なくなり、長期の低インフレ率によって事態はさらに悪化するだろう。
加えて、フィリップ曲線のフラット化によってインフレ期待はさらに下がってきたので、FOMCメンバーは「埋め合わせ」戦略を検討している。
「埋め合わせ戦略のメリットは、時が来たら実際にインフレになると信じている家庭や企業に激しく依存する」とクラリダ副議長は述べた。「例えば、持続的なインフレの鈍化が将来の2%を上回るインフレによって相殺されるだろうといった考えだ」
ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁(NYSE:WMB)は、フリップ曲線のフラット化に対して懐疑的である。しかし、インフレ期待がFRBの目標を下回って低下しているのは事実であり、FRBがインフレ予想のアンカーを引き下げることに成功したことを示している。
ウィリアムズ総裁によると、過去25年間の平均的なインフレ率は1.8%であり、FRBのインフレ目標を継続的にアンダーシュートしている。同氏は、インフレ予想をFRBの望む水準にアンカーしておくための代替的な枠組みを検討していると締めくくった。
これらの細かい学術的なニュアンスを無視して、投資家はインフレのヘッジとして金を買い入れており、JPモルガン(NYSE:JPM)のアナリストは物価連動米国債(TIPS)を推奨している。
とはいえ、FRBがインフレを加速させるためにできることはほとんどない。今のところ、金やTIPSを買い入れることでヘッジできることはなにもないだろう。クラリダFRB副議長やウィリアムズ総裁がやんわりと指摘しているが、トゥーミー上院議員の指摘は時代遅れのようである。