※この記事は2019年5月16日8:07(GMT)に投稿されたものです。
米国とイランとの緊張が高まっている。5月12日に米国の同盟国のサウジアラビアなどのタンカーが破壊的攻撃を受けたことにより、米当局はイランを後ろ盾する勢力の関与を疑い、ペルシャ湾周辺への海軍・空軍の勢力を強化している。イランはホルムズ海峡の封鎖警告をしており、「米国が動けば、我々は相応の対応を取ることになるだろう」としている。
このような情勢の中で、原油市場は大きく反応していない。従来では、中東問題に対して原油市場は敏感に反応していた。
5月12日、アラブ首長国連邦(UAE)のフィジャイラ沖で、サウジのタンカーなど2隻、UAE船籍1隻、ノルウェー船籍1隻が損傷を受けたとUAEが発表したが、原油価格の上昇はたった2%に過ぎなかった。
5月14日、サウジの石油パイプライン施設が爆破物を積んだドローンによる攻撃を受けたとの発表があった。パイプラインはその日閉鎖せざるを得なくなった。しかし、その日原油価格は1.5%のみの上昇であった。そして、14日のNY時間終了時にはすでにこれらの上昇は打ち消されていた。
ロイターが伝えるところによると、米国は、最大12万人の兵力をペルシャ湾に投入する計画があるという。しかし報道後、トランプ米大統領はこのことについて否定した。
複数のメディアが米国とイランの軍事衝突が起こる観測が強まっている旨の報道をしているが、原油価格は現在のところ大きく反応を見せていない。
米イラン間の緊張が高まっているが、原油市場が反応しない理由は以下の通りだと推測する。
1. これらのニュースに対してメディアは煽りすぎとの見方をしている
サウジのタンカーへの妨害やパイプラインの破壊工作において、メディアは原油への影響力を過剰に報道している。実際は、原油生産や輸出に対して影響力は限定的である。妨害を受けた4隻も原油を運んでいた訳ではなく、パイプライン施設は翌日には通常営業に戻っている。
この2つの事件をTankerTrackers.comによる衛星画像で確認すると、報道されているように深刻ではないことが推測される。
トレーダーがサウジやイランのニュースに対して反応が薄くなってきているのは、このように実際の深刻度は比較的低く、原油の生産・輸出に影響がないと判断しているからだろう。
2. イラン問題よりも米中貿易協議へ注目している
米中貿易協議は決裂していないものの、関税報復合戦が再び始まり激化の一途をたどっている。
貿易戦争による世界経済低迷によって原油需要が減り、原油価格を押し下げる可能性がある。
ペルシャ湾の緊張よりも、貿易戦争の方が市場心理を左右しているのが現状だ。
3. 原油供給よりも需要に焦点を当てている
5月14日に発表されたOPECの4月の統計レポートでは、2019年の原油需要は昨年の水準よりたった日量121万バレル高いのみの水準であるという。
5月15日では、国際エネルギー機関(IEA)も2019年の需要成長率を下方修正した。前回予想より日量9万バレル少ない、日量130万バレル増であるとしている。これは原油価格の上昇に水を差す予測となった。
4. 今後のOPECの決定を注視
今週末に石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国による共同閣僚監視委員会(JMMC)の会合がサウジアラビアのジェッダで行われる。しかし、現在の協調減産を続けるかどうかについて言及はないと考えられる。この決定は6月末のウィーンでのOPEC総会で行われることだろう。