今週の最も重要な経済指標は米小売売上高であった。小売売上高は予想を倍以上上回ったものの、マーケットの反応はいまいちであった。世界経済への不透明感や米中貿易摩擦がマーケットにとって最大の懸念となっている。万が一消費者支出が急増した場合でも、FRBは米中貿易摩擦や株式市場の下落に対処するために、利下げを行う必要があるだろう。米国による対中追加関税の延期は、米中関係の改善を意味しないのである。
ロス米商務長官は、追加関税の延期は米消費者を関税の影響から防ぐことが目的であり、中国からの見返りはなにもないと述べた。一方、中国は、追加関税がG20での合意に反すると主張し、報復措置を講じる意向を示している。米中間での応酬が今後も続く場合、外国為替市場や株式市場は、低調に推移することが予想される。
15日に発表された米小売売上高は0.7%増となり予想の0.3%増を上回った。自動車やガソリン、建材、食品サービスを除いたコア指数は1.0%増となった。また、ニューヨーク連銀製造業景気指数は4.8、フィラデルフィア連銀製造業景気指数は16.8となり、いずれも予想を上回った。一方、鉱工業生産指数は0.4%減、米新規失業保険申請件数は9000件増の22万件となり、弱い結果となった。
前回のFOMCで、パウエル議長は大幅な追加緩和に対して慎重な姿勢を示していた。しかしその後、株式市場は下落し、米中関係は悪化しており、マーケットは今年中に2度、0.25ポイントの利下げがあると見ている。小売売上高のように、17日発表の米住宅着工件数や米住宅建築許可件数、ミシガン大学消費者信頼感指数は、株式市場や外国為替市場に対してそれほど大きな影響を及ぼさないだろう。
米小売売上高を背景に、米ドル/日本円は一時106.38まで値を上げて取引されていた。しかし、米小売売上高の影響を最も受けていたのは、ユーロ/米ドルであり、1.11まで下落した。また、米ドル/日本円に関しては、今後も米国債利回り下落の影響を強く受けるだろう。
米10年国債利回りは2016年ぶりに1.5%を下回っている。2年国債利回りと10年国債利回りのイールドカーブはフラット化しており、今後逆イールドが発生する可能性は十分に考えられる。
一方、オーストラリアでは、雇用者数が予想の1万4000人増に対して4万1000人増となった。BKアセットマネジメントのボリス・シュロスバーグ氏は「さらに重要なのは、フルタイムの就業者数が3万5000人増加していることだ。これは、米中貿易摩擦にも関わらず、依然として豪経済が堅調であることを示している」と述べた。
しかし、失業率は上昇基調であり、オーストラリア準備銀行(RBA)による利下げが予想されている。
また、英小売売上高も予想の2.6%増を上回り3.3%増となった。英国における雇用状況や賃金の上昇、消費者支出は、合意なき離脱のリスクを考慮すると遥かに堅調な結果となっている。ブレグジットにおいて何らかの合意が結ばれた場合、ポンド/ドルは1.25を上回ることが予想される。経済指標以上に政治的リスクは無視できないものとなっている。