【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。
筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。
関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。
考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察「貿易戦争、トランプ、ファーウェイ、今後の中国の関わり方(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
———こうした中国市場に集中することへの危機感から、中国への投資は縮小するだろう。
今目立った投資をする必要はあるのか。
半年またはそれ以上待ったうえで、状況がどのように変化するかを確認するのが得策だろう。
中国が金融セクターの外資参入の基準を引き下げたとしても、中国経済が減速し、国内企業が確固たる地位を築いている現在、本当に中国にチャンスがあると言えるのだろうか。
ビジネス環境が厳しくなるにつれ、外国人人材は中国から出ていくだろう。
これは、安全に対する懸念もあるが、スタッフを自国に固定させたいという願望と、より経験豊富なスタッフを必要とするビジネスの可能性が中国には存在しないという単純な現実によるものである。
中国との関係が変化すれば、中国で直面している不均等な競争条件や圧力について、積極的に発言するより大胆で率直な経済界を見ることができるだろう。
商工会議所は、メンバーが直面している困難を示すために声を上げており、こうした動きはすでに始まっている。
もちろん、米国の政治分野での反中国的なレトリックも反発につながっている。
時に人種差別主義に近い、はるかに厳しい目が向けられることもあり、これを中国生まれの研究者、エンジニア、学生、ビジネスマンに対する病的な偏見(パラノイア)が広がっていると言う人もいる。
長期ビザの取り消しや全般的に厳しい入国要件によって、すでに犠牲者が出ている。
こうした反発は、中国側からの開放の確約や十分な確認をしないまま、基本的な互恵関係を無視して中国への門戸を急速に開放しようとした初期の浅はかな政策によるものである。
中国の多くの地域における米国の政策は、中国の姿勢がもたらす真の課題から意図的に目を背けてきた。
中国はその意図をおおむね明確にしていたが、政策立案者は短期的なリターンを達成するため、中国の長期的な野望に気づかぬふりをしたのだ。
何十年にもわたる多岐にわたる関わりの後、バランスを取り戻そうとし、一部の分野では関係性の完全再調整しようとすることは、間違い、行き過ぎ、そして苦痛を伴うことは言うまでもない。
一貫した対中政策とはどのようなものなのか。
トランプ氏には他にどのような戦略があるのか。
「貿易戦争」は勝てる戦いなのか。
第一に、貿易戦争の対話とは取引であり、トランプ氏はおそらく、これを他の不動産取引やテレビのリアリティ・ビジネス番組と同類とみているのだろう。
しかし、これは単一の契約ではない。
中国との取引は分野ごとに大きく異なるのだ。
気候変動や海洋汚染のような地球規模の問題には、あらゆる側面での協力が必要だが、その他の分野では、二国間で折り合うことなく、場合によっては対立さえ生じることになる。
トランプ氏は、米国の長年の同盟国との同盟関係を再確認すべきだ。
ほぼすべての同盟国が中国に対して同様の不満と懸念を抱いているのだから、すべての国と戦うのは得策ではない。
トランプ氏のスタイル、態度および発言すべては、EUを遠ざけ、日本とは良好な関係を維持しながらも、戦後の安全保障同盟に疑問を投げかけている。
しかし、米国、EU、日本が一体となり中国に働きかけるという構図は、中国は何としても避けたいだろう。
無敵の集団とも言えるからだ。
中国は、分断と支配というゲームの中で自らが利益を得る状況を望んでいる。
EU中央当局がより強固な中国政策を形成しようとしている中、EUの脆弱性を利用して東欧諸国やイタリアの支持を得ることに中国は大きな成功を収めている。
そこから発展していくのがTPPの再評価である。
トランプ氏が大統領就任初日に離脱を表明したこの多国間協定は、中国がこれらの国々との取引を望むのであれば、中国が変わらなければならないという圧力をかけることに焦点が当てられていた。
オーストラリア、日本、そして太平洋のその他の地域を閉ざすことは、アメリカにとって非常に好都合である。
多国間主義を拒否することは、中国との部分的かつ場当たり的な取り決めを行うことにつながり、これを中国は最大限活用しようとするだろう。
欧米は、中国が合意された規範や自らの約束に違反するならば、その行動を非難するべきである。
許しがたい人権侵害や地政学上の野望に対して、中国を怒らせないように、私的な場で控えめに発言されたり、指摘されたりすることがあまりに多い。
これは止めなければならない。
中国に対し、新疆、南および東シナ海、あるいは経済分野における状況を公に説明するよう求めることは、健全で誠実な交流のために不可欠である。
これは、深夜の突然のツイッター投稿ではなく、政府全体としての適切な公開討論、声明および行動を意味する。
米国を批判しても誰も気にしないが、ほぼすべての人は中国に対して、そして中国のことを率直に話すことを避けている。
貿易関税以外にも、米国は中国に対して大きな影響力を持っている。
世界で最も深く広範な資本市場を有する国として、資本戦争の可能性は極めて現実的である。
マルコ・ルビオ上院議員は、より高い開示基準を求める最近の法律に基づき、米国で上場している中国企業に対して、既に初期攻撃を実施した。
これは、米国がすべてのシステムを使って中国のアクセスを制限しようとした場合に与え得る圧力のほんの一部にすぎない。
技術、特にチップ設計についても同様のことが言えるだろう。
最近の中国の技術の進歩や追い上げに多くの人々は驚嘆しているが、その一方で、中国はインテルのチップと米国の知的財産を使用していることを忘れてはならない。
ファーウェイはその議論の中心に存在していたため、貿易戦争によって提起された多くの問題の象徴でもあった。
トランプ氏は中国と米国の関係をリセットした。
過去の失敗した政策に逆戻りすることはないが、彼の無遠慮なアプローチと関税や赤字に対する執着は、現実的な関係を構築するための基盤とはならない。
部外者が、中国共産党をどれほど不快であると感じていようとも、中国経済は崩壊寸前ではないし、中国はベネズエラでもなければ、共産党が解体すると考える理由もない。
中国の権威主義的支配は、一朝一夕に消滅するとは思えないほど深く根付いている。
米国と中国の全面的な経済戦争は、既存している対立関係の望ましい終わり方ではない。
両国共に打撃を受け、それが世界経済にも波及するだろう。
しかし、中国との付き合い方には、中国がどういう国で、何をしているのかという現実に基づいて行う必要がある。
過去30年間、米国をはじめとする国々は、中国が彼らの望むべき姿になるという考えに基づき中国と交渉してきたが、今では、その期待通りに中国が発展しなかったことに衝撃を受けている。
こうした状況は変わりつつある。
※1:中国問題グローバル研究所https://grici.or.jp(この評論は7月20日に執筆)