[東京 5日 ロイター] - 英調査会社オムディアの南川明シニアディレクターは、新型コロナウイルス感染拡大の終息後には、事業継続(BCP)の観点からテレワークや自動化など効率化技術へのニーズが高まり、世界のハイテク生産は急回復すると予想する。日本企業は半導体材料や電子部品といった「川上」寄りの分野に恩恵があるとみている。中国に集中してきたサプライチェーンは見直しが進むものの、日本は欧米に比べ工場の国内回帰の動機づけに乏しく、生産の分散化は周縁の東南アジアに向かうとの見方を示した。
南川氏のコメントは以下の通り。
<コロナ後の急回復、日本企業は「川上」に恩恵>
世界のエレクトロニクス生産は、コロナ終息後に電子機器で前年比10%程度、半導体で20%程度の成長があり得る。不況期に先送りされた需要が、一気に噴き出すためだ。過去のリセッションからの回復局面では必ず見られた経験則だ。
加えて、コロナ禍の最中では、ウェブ会議や電子商取引(EC)でかなりの業務がこなせるとわかった。コロナ終息後も、BCPの観点からビジネス社会に根付くだろう。ビジネスのプロセスをデジタル化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の市場拡大も加速しそうだ。こうした需要の高まりによって、ハイテク生産の回復局面は力強さが期待される。
ただ、日本企業が直接的な果実を得る機会は限られるかもしれない。米マイクロソフトや米シスコシステムズはウェブ会議で先行し、すでに日本市場で大きなシェアを握っている。日立製作所 (T:6501)や東芝 (T:6502)、NEC (T:6701)、富士通 (T:6702)などは、いずれもDXの分野に力を入れるが、こちらは独シーメンス (DE:SIEGn)が世界市場で先行しており、切り崩しは容易ではない。
世界のテクノロジー分野で存在感を増すのは、米GAFA(アルファベット (O:GOOGL)傘下のグーグル、アマゾン・ドット・コム (O:AMZN)、フェイスブック (O:FB)、アップル (O:AAPL)の4社)に代表される米国勢だ。コミュニケーションツールやデリバリー、データベースなどは成長余地が大きい。圧倒的な資金力を背景に、有望なスタートアップ企業の取り込みを積極化し、競合相手の突き放しを図るだろう。
これら海外の巨大企業に比べ、日本のエレクトロニクス企業は取り残されている印象が否めない。プラットフォーマーを生育する人材に乏しい点が最大の要因だろう。外資系ハイテク企業から積極的に人材を採用する動きがあるが、せっかく革新的なアイデアが提案されたとしても、旧来の価値観を変えられない経営陣が却下できるような体制なら、日の目を見ることはない。
もっとも日本企業もモノづくりの「川上」寄りの分野では強味を維持している。信越化学工業 (T:4063)やSUMCO (T:3436)といった半導体材料や、東京エレクトロン (T:8035)などの製造装置、日本電産 (T:6594)などのモーター、ファナック (T:6954)などの産業ロボット、村田製作所 (T:6981)、TDK (T:6762)などの電子部品といった分野は、世界的にIT需要が回復する局面で恩恵を受けやすい。
<中国一辺倒の見直し>
生産面では当然、サプライチェーンが大きく見直されるだろう。世界的に供給網が寸断された苦い経験を踏まえ、従来の中国一辺倒から、特に米国では、より自国での生産を重視する姿勢が強まり得る。全ての製品とはいかなくても、ある程度まで自国で生産できる体制を築くことは国内雇用にもプラスに働く。
米中摩擦もあって、旧西側諸国の企業は中国とは距離感を保つ必要性をもともと持ち始めていた。物流のリスクを踏まえると、消費地に近いところで生産する「地産地消」の動きはさらに加速するだろう。大量生産の一国集中から、少量生産の分散化が進めば、コストを抑えるため自動化へのニーズも高まるだろう。
日本企業も、BCPの観点から一部で国内回帰の動きはあるかもしれない。ただ、電気代や土地代が高く、補助金が少ない国内に工場を戻すメリットは、欧米に比べれば乏しい。中国からの生産の分散化は、アジア周縁国へと向かうのではないか。
<中国包囲網の行方>
中国企業のコロナ後の世界市場でのプレゼンスは、予想しにくい。鍵を握るのは欧米の外交スタンスだ。中国は習近平体制の下で、半導体などの国産化を目指しており、欧米から制裁的な扱いを受けなければ、かなり力をつける可能性がある。
ただ、欧米は、中国による兵器の開発、欧米の技術のコピーなどを非常に警戒している。仮に、冷戦期に共産主義国への軍事技術・戦略物資の輸出を規制したCOCOM(ココム)が再現すれば、中国は完全に孤立し、当面は浮き上がれなくなる。
(聞き手:平田紀之、編集:石田仁志)