米大統領選でのトランプ氏勝利は予想外であったが、その後の世界的な金融市場の反応もまた想定外のものとなっている。
大統領選当日の9日の東京市場はトランプ候補の勝利を織り込む形で株安円高が急速に進行したものの、一転して、欧米市場や10日の東京市場では株高円安に急転する展開となった。
米国金利の上昇に伴うドル高進展が相場のモメンタムを変化させることにつながったが、トランプ大統領誕生によるネガティブ材料、ポジティブ材料が、それぞれの場面ごとに、極端に一方向に反映された印象が強い。
現在はトランプ氏の政策によるマイナス面への懸念はほとんど忘れさられている状況となっている。
まず問題視されたのは、政治経験のないトランプ氏の政策運営に対する不透明感は当面の間拭えず、こうした不透明感は市場のマイナス要因につながるとみられたことだ。
ただ、現在では、大規模なインフラ投資、大規模な減税策にスポットが当たり、こうした政策による景気拡大期待が、不透明感を打ち消してしまっている。
また、米国の保護主義政策の強まりに伴う輸出関連企業の収益悪化懸念、日米安保体制の変化の可能性などによる地政学リスクの高まりなどから、日本にとっては相対的にネガティブな影響受ける可能性が高いと見られていた。
保護主義政策に関しては、これがストレートに円高につながるといった見方はマーケットの間違いであった公算も確かにある。
ただ、関税の引き上げによる輸出関連企業への影響は依然として不透明。
少なくとも、中国やベトナムに大きな関税がかけられるだけでも、日本の輸出企業(とりわけ、自動車や自動車部品)にはマイナスの影響が想定されることになる。
また、日米安保体制に関しても先行き懸念が残る。
防衛費の増大に伴い他の事業予算の縮小が迫られる可能性、アジアにおける中国の影響力強化の可能性などの影響は織り込まれていない。
防衛費増加期待で防衛・軍事関連は買われているものの、しわ寄せが響くような関連銘柄も今後は顕在化してこよう。
14日の報道では、トランプ米次期大統領が安定した政権運営に向けて動き出したと報じられている。
共和党主流派の協力を得るため大統領首席補佐官にプリーバス党全国委員長を起用するほか、不法移民の強制送還は一部にとどめるなど看板公約の一部も修正し始めたという。
トランプ政権の安定化、過激政策の修正などが今後も想定される状況となっていくだろうが、一方では、トランプ氏の期待政策とされている大型インフラ投資や大規模減税などの規模も、現在の財政状況に見合った現実路線に下方修正されてくる可能性があろう。
現在の急ピッチの株価の戻りは、「いいとこ」のみを先取りした状況であるため、トランプ氏の政策が実際にどういったものになるか不透明な中で楽観的過ぎる印象が強い。
(執筆/佐藤勝己~フィスコ・チーフアナリスト)