[東京 22日 ロイター] - 4月末に始まるゴールデンウィークは、新型コロナウイルス感染症対策の行動制限もなく、サービス需要が盛り上がる見通しだ。旅行などで遠出を計画する人も増え、これまで抑制されていた需要が噴き出し、消費は久々に活況になるとみられる。一方、物価上昇の足音が日増しに高まる中、消費者マインドにはすでに陰りの兆候も出ている。専門家からは、この連休が年内「最後の宴」になるとの声も上がっている。
<大型連休、政府・日銀も注目>
政府は新型コロナ対策の「まん延防止等重点措置」を期限の3月21日に全面解除。大型連休中の都道府県をまたぐ移動も、自粛の呼びかけなどは行わない考えを示している。
大手旅行代理店のJTBがまとめた大型連休(4月25日━5月5日)の旅行動向によると、国内旅行者数は1600万人、対前年で7割増と推計される。より遠方への旅行が増加し、日数や費用も増える見通しという。
市場調査会社インテージの田中宏昌・生活者研究センター長は消費者の意識について「安全に配慮していれば、フルオープンではないものの、ゴールデンウィークに楽しんでもいい、ないし最低限帰省はしてもいいだろうというマインドに変わった」と分析する。
こうした状況の中、政府は若者世代のワクチン3回目接種の促進と催事の需要喚起策として検討していた「イベントワクワク割」の実施を急がない方向に切り替えた。
経済官庁のある幹部は「参院選前のコロナ再拡大を防ぎたいなら5、6月に何もしないのが吉。放っておいても消費がいいなら、そこで無理にやる必要はないという考え方は官邸にあるかもしれない」と話す。
日銀内でも、消費を控えていた人々のペントアップ需要がゴールデンウィークに発生し、サービス産業を押し上げる構図になるとの見方がある。
<相次ぐ値上げ、生活の「ハードル上がった」>
ただ、大型連休以降もサービス消費が順調に回復していくかは不透明だ。ウクライナ情勢の影響でエネルギー価格や原材料価格が高騰。急速に進む20年ぶりの円安も輸入物価を上昇させる要因となり、食料品や生活関連用品など幅広い分野で値上げが相次いでいる。
すでに消費者の日常生活では、節約意識の高まりもみられてきた。
「赤ちゃんがいるので、おむつ、ミルク、お尻ふきは必需品。チラシが入った時を狙ってお店に行って箱買いするようになった」。9歳と3歳の男の子、1歳の女の子を子育て中の埼玉県吉川市の主婦、高橋麻衣子さん(42歳)はこう話す。
最近は隣町まで買い物の範囲を広げて「買い回り」するようになった。スーパーでは事前にリストを作って無駄な買い物を控え、価格が安いプライベートブランドを購入するケースも増えた。
東京都港区で働く、社会人2年目の郷萌花さん(23歳)。奨学金の返済が始まった社会人1年目もそれほど余裕はなく、洋服や化粧品の購入を最低限に抑えていたが、「最近ハードルがさらに上がった」という。ランチはなるべく手づくり弁当、夜は自炊するようにして節約している。
経済指標にも消費者マインドの冷え込みは表れ始めている。内閣府が発表した消費動向調査によると、3月の消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は32.8と、3カ月連続悪化。2021年1月以来の低い水準となった。
<物価高の後塵拝する賃上げ>
3月に14年ぶり高値をつけ、その後も高止まりが続く原油価格は、数カ月のタイムラグを伴って電気代やガス代に反映される。大型連休以降は、光熱費の上昇が家計を圧迫する見通しだ。
総務省が22日発表した3月の全国消費者物価指数(CPI)によると、電気代は前年比21.6%上昇と41年ぶりの伸び率となった。大和証券の末広徹シニアエコノミストは「7─9月期には前年比プラス30%くらい行きそうだ」と指摘。4月以降は携帯電話通信料の引き下げによる押し下げ効果も剥落し、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の前年比は2%前後に上昇すると予測している。
CPIの急速な上昇は、実質賃金がマイナスへ転じるリスクもはらむ。連合によると、今月12日時点で妥結した加盟労働組合の平均賃上げ率は2.11%とコロナ禍が広がる前、19年の2.13%に迫る伸び率を回復した。ただ、この水準では「22年度の名目賃金は前年比プラス1%に満たない伸びにとどまるだろう。物価上昇を加味すると22年度の実質賃金はマイナスとなり、個人消費の回復を阻害する要因になる」(みずほリサーチ&テクノロジーズのエコノミスト、嶋中由理子氏)という。
値上げ一辺倒の企業の間にも、景気鈍化を見据えた動きは垣間見える。無印良品を展開する良品計画は今後、通常の商品群とは別に、例えば残反を用いた靴下など「訳があって安い」商品を拡充する。堂前宣夫社長は「生活をサポートできるようなものを作り込む」と説明する。
大和証券の末広氏は「今回の大型連休についてはコロナ禍の反動増もあって好調なサービス消費が予想されるが、7─9月期以降、本格的に物価高の影響が出てくる。消費が強いのはゴールデンウィークがピークとなり、まさに年内『最後の宴』になるだろう」と話す。
(杉山健太郎、基太村真司、取材協力:小宮貫太郎 編集:石田仁志)