英国では欧州連合(EU)からの離脱の有無を国民に委ねる国民投票が6月23日に実施される。
英国によるEU離脱は「Brexit」と市場では呼ばれている。
キャメロン政権は、経済面での損失を回避するべく残留をアピールしている。
一方、国民からの人気が高いロンドンのジョンソン市長を筆頭に離脱派は、EUの官僚体質への批判を繰り広げている。
キャメロン政権にとって、ジョンソン市長が「Brexit」推進論者に変わったことは大きなネガティブサプライズとなった。
また、国民投票まで2ヶ月を切ったなか、現在キャメロン政権はもう一つ大きな逆風を受けている。
突然、世間に知れ渡ることとなった「パナマ文書」の存在だ。
■世界を揺るがしたパナマ文書 「パナマ文書」は、パナマの法律事務所から金融関連の文書が流出し、世界各国の政治家などが英領バージン諸島などのタックスヘイブンを通じて租税を回避していたことが指摘された。
「パナマ文書」が発表された直後、アイスランド首相が辞任を表明したことから、文書が本物であることは明白だ。
アメリカのオバマ大統領は、課税逃れが合法であること自体が問題だとして対策を強化する考えを示したが、各国の為政者の名前が指摘されていることで火消しには相当時間がかかるとの見方。
■5月10には追加情報を公表予定 今回発覚した「パナマ文書」で、亡父イアン氏がパナマで運営していたオフショア信託が取り沙汰され、キャメロン首相は自身と妻が同社の株を一時保有していたことを認めた。
この問題でキャメロン政権は大きく揺らいだ。
ただでさえ6月のEU離脱の是非を問う国民投票実施で英国株やポンドが不安定となっているなか、新たな不透明要因が加わったことから衝撃は大きい。
違法性はないが、為政者や周辺関係者によるタックスヘイブンを利用した課税逃れは有権者に批判されてもおかしくはない。
なお、「パナマ文書」のインパクトのピークは過ぎた感はあるものの、5月10日(日本時間3時)には追加で20万社超の法人情報を国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のホームページ上で公開する予定だ。
200を超す国・地域の個人が関わっているとの観測から、心当たりのある世界の為政者、著名人は戦々恐々とした心持ちとのことだろう。
■キャメロン政権の支持率は21%と危険水域に そのようななか、英財務省は18日、EU離脱は30年までにGDPを約6%押し下げるという試算を公表した。
キャメロン首相は「残留すれば、英国はより強くより安全でより豊かになれる」と訴えたことが奏功し、直近実施された世論調査では、残留が5割、離脱が4割とやや残留派が上回っている。
ただ、キャメロン政権自体の支持率は21%と危険水域にある。
「6月23日を英国の独立記念日にしよう」とジョンソン市長は声高に演説している。
キャメロン政権としては、5月10日の追加公表を無事に乗り切りたいところか。
■EUという巨大な経済圏の混乱は日本企業にはマイナス 英国の政情不安が日本株に与える影響を最後に考察したい。
例として14年に行われたスコットランド独立住民投票の際の動きを確認する。
9月18日に英国からスコットランドが独立するか否かの是非を問う住民投票が実施された。
英国は北海油田の莫大な権益を失うかどうかの瀬戸際を迎えていたが、最終的にスコットランド全体では反対票が55%となり独立は否決された。
2012年10月に住民投票の実施が決まってから結果が出るまで約2年間という長期間だったこともあり、日経平均をはじめ日本株に対する影響は限定的となった。
ただ、今回の国民投票は、EUという巨大な経済圏からの離脱の可能性があることからインパクトは大きい。
欧州での売上高比率が高い企業は少なからずマイナスの影響は受けよう。
英国を始めEU及び世界経済への影響は読みにくいが、英国によるEU離脱で日本企業にプラスとなるケースはほぼ無いと考える。
(アナリスト 田代昌之)