[東京 21日 ロイター] - 日銀は21日、半期に一度の「金融システムリポート」を公表し、地域金融機関中心に伸びている不動産業向け融資について、不動産ファンドには海外の投資ファンドから資金が流入しており、米金利の上昇などグローバルな環境変化が海外ファンドの投資減少につながれば、不動産ファンドの価格下落につながると警鐘を鳴らした。
リポートは、日本の金融システムは「全体として安定性を維持している」と総括。先行き、新型コロナウイルス感染症の再拡大と米長期金利の上昇がともに生じて実体経済と国際金融市場が調整する状況を想定しても「日本の金融システムは相応の頑健性を備えている」とした。
<米金利上昇、邦銀の預貸利ざや改善は「限定的」>
日本の商業用不動産市場で大きい位置を占める不動産投資信託(J―REIT)などの不動産ファンドには、近年欧米など海外の投資ファンドの資金が流入し、残高は200億ドルを超えた。日銀はリポートで、米金利が1%ポイント上昇すれば、日本の不動産ファンド価格は2.52%下落するとの推計を示した。この下落率は米国の1.56%、欧州(除く英国)の0.47%を上回る。
大手行が注力する海外向け与信については、米銀に比べて非投資適格級の比率が高いと指摘。業種別では電気・ガスやエネルギーのウエートが高い一方で、卸売・小売や建設・不動産のウエートが低いとした。こうした特徴を踏まえると、金融環境が広範に悪化すると米国の大手商業銀行に比べてデフォルト率が上昇する可能性があるとした。
また、コミットメント・ラインの引き出しも考慮して外貨流動性のリスクを分析すると、在米欧州銀に比べて邦銀は流動性資産が少なく、その分外貨の市場調達が多いため流動性リスクが高いと指摘した。
リポートでは、米金利上昇局面における3メガバンクの国際部門の預貸利ざやについても分析。米銀に比べ「米国金利上昇時の預貸スプレッドの改善は限定的」とした。
邦銀は米銀より決済性預金が少なく、大口の定期預金が多いため、市場金利上昇時には貸出金利のみならず預金金利も上昇してしまうことが原因だと説明している。
<ウクライナ情勢、市場が大規模調整なら影響大>
日本の金融機関のロシア向け与信残高は71億ドルと、国際与信全体の0.3%と極めて小さい。
リポートはウクライナ情勢について、現時点で金融システムへの影響は限定的だが、「先行きには大きな不確実性がある」と指摘。資源高やサプライチェーンの悪化で融資先企業の収益に悪影響が及ぶ可能性に留意が必要だとした。「国際金融市場の大規模かつ急速な調整が生じる場合には、日本の金融システムに大きな影響が波及する可能性もある」とも指摘した。
(和田崇彦 編集:田中志保)