Howard Schneider
[セントルイス 3日 ロイター] - 米ウォール街の視点では今は貿易摩擦や関税が全てで、先行きは不透明でしかない。だが伝統的なリテール銀行業務に携わるバンカーに景気はどうだと尋ねれば、「かなり順調」と答えてくれる。
米国民は家を買い続けているし、中小企業の借り入れは相変わらずで、家計収入は増え、それが消費に回されている。トランプ政権の対中貿易戦争の逆風をもろにかぶっているように見受けられる農業セクターでさえ、事業継続に必要なローンの担保となる土地の価格が堅調なので、資金繰りは悪くない。
こうした前途洋々たる環境は、米長期債利回りが過去最低近辺になったり、ホワイトハウスから新たな通商面での強硬策が出てくるたびに株価が動揺をしている最近の金融市場とは対照的だ。2日に米国株がさらに2%下がり、世界貿易機関(WTO)が世界の貿易の拡大見通しを下方修正しても、リテール業務に関連する経済分野の明るさは続いている。
セントルイス地区連銀主催の会議の傍らでインタビューに応じた州法銀行監督官協会(CSBS)幹部のマイケル・スティーブンス氏は、米連邦準備理事会(FRB)の高官らが、経済の足場は強く雇用はしっかりしていて、家計セクターも強固だと主張し続けていることに言及した上で「地方レベルに下りてみると、(彼らの見解に)整合性が見出せる」と話す。CSBSは、総資産100億ドル未満の約5500行を監督しており、そのほとんどは資産が2億5000万ドルに満たない中小行だ。
CSBSは春以降に、全米の500を超えるコミュニティーバンクを調査対象にした新しい業況指数を導入。6月に明らかにした初めての調査結果では「総じて前向きな見通し」が示され、大多数は業況と利益が安定ないし改善すると回答した。
2度目となる最新の指数が公表されたのはごく最近で、調査期間に含まれている夏場にはトランプ大統領が米企業に中国撤退を促したり、パウエルFRB議長を共産主義者と同じく米国の敵だとののしるなど、世の中を激しく揺さぶる出来事があったものの、見通しは変わらなかった。
テキサス州ダラス郊外に拠点を置くアライアンス・バンクのトム・セラーズ社長は、同州への転入人口が増え続けている点を踏まえて「先行きは明るい。人々がテキサスにやって来て家を建てている。建設や商業、住宅などの活動はなお活発」だと指摘。これらの動きが、かつて同行にとってより重要だった酪農業の停滞を穴埋めしてくれているとの見方を示した。
貿易戦争をはじめとするリスクがあるものの、セラーズ氏は「私は依然として自分たちの事業についてかなり楽観的だ」と言い切った。
<FRBのジレンマ>
CSBCの調査結果からは、FRBが直面しているジレンマが浮かび上がる。FRBは、もし国内製造業や国際貿易の減速が米国の雇用や賃金の伸びを圧迫し始めた場合でも、しっかりした家計消費支出が続くのか、それとも冷え込んでしまうのか見極めようとしているからだ。
実際、今回の会議に出席した銀行関係者の一部からは、やや慎重な声も聞かれる。キッシュ・バンクのグレゴリー・ヘイズ社長は「あらゆる材料がリセッション(景気後退)を示唆している」と語り、同行の営業基盤であるペンシルベニア州の農村部では中小企業向け融資の伸びが5月に頭打ちになったまま、まだ回復していないと説明した。
その頃はトランプ氏がメキシコに移民流入問題で制裁関税をちらつかせ、これがFRBの経済リスクの分析にも影響を及ぼした。
全米で見ても、銀行の商工業融資の前年比伸び率は4月以降にそれまでの10%から5%前後と約半分に鈍化し、製造業の減速や国際貿易の落ち込みが響いた可能性が読み取れる。
それでも米経済で圧倒的な比重を占め続けているのはサービスと個人消費であり、これらは総じて好調なことから、ワシントンの議論の中心となっている貿易戦争に対し、米経済の多くの部分がいかに大きなバッファーを持っているかが分かる。
いくらトランプ政権が中国に制裁関税を課し、中国が報復したとしても、テキサス州には相変わらず人が入ってきて、彼らは全員、住む場所や食品雑貨店、床屋、修理工といったサービスを必要としている。
だから地元銀行は、融資残高を上積みすることが可能で、雇用と賃金の伸びが止まらない限り、そうした動きは持続できる。
マサチューセッツ州ボストン近郊のリーディング・コーオペラティブ・バンクのジュリアン・サーロウ社長は「われわれは活気にあふれ、頑健な経済状況を享受している」と強調。輸出と貿易財に依存する都市部は雰囲気が違うかもしれないが、ボストンの周辺部はサービスとハイテク、教育産業が主流で、失業率は低く、住宅需要は非常に大きいと付け加えた。