[ニューヨーク 9日 ロイター] - 米国債利回りが足元で跳ね上がっているが、投資家は今度こそは上昇の流れが続くのかどうか、思案を巡らせている。
ファイザー (N:PFE)が9日、ドイツのビオンテックと共同開発中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの臨床試験で90%を超える有効率が示されたと発表すると、リスクオンのムードが高まった。安全資産の米国債から、銀行株や高利回り社債など景気好転で恩恵を受けそうな資産への乗り換えが進んだ。このため米10年国債利回り (US10YT=RR)は1%に迫り、3月以来の高水準を付けた。
このところ見られた利回り上昇は結局失速した。米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を事実上ゼロに維持している影響で、利回りのレンジは狭い幅に収まり続ける形になった。
それでも今回は事情が違うのではないかとの声が出ている。INGのアナリストチームは、ワクチンの「登場」こそが金利市場が待っていた瞬間であり、これまでとの大きな違いは、市場が結局は金利を反落させるような動きは、今回は必要ないだろうという点だと強調した。
ナットアライアンスの国際債券責任者アンドリュー・ブレナー氏は、実際にワクチン接種が始まり、新型コロナ感染者が減れば、FRBは利上げ開始の想定時期を2023年から22年、場合によっては21年後半にさえ修正する検討に乗り出すだろうと述べた。
トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズを率いるマイケル・パーブス氏は、市場の利上げ見通しを反映する2022-24年のユーロドルの金利カーブが9日に急激に上がったことは注目に値すると指摘。これはFRBのゼロ金利政策のかく乱要因として、追加経済対策よりもワクチンの影響の方がずっと大きい可能性を示唆しているとも述べた。
一方、やはり利回り上昇は長続きしないのではないかとの見方もある。政治停滞が解消されず追加対策が成立しない可能性に加え、ワクチンの承認や配布までの期間がまだはっきりしないからだ。
ヘッジファンド、ディア・パーク・ロードのスコット・バーグ最高投資責任者は「(米国債は)レンジ取引のまま、向こう1年で利回りが下振れるとの考えを維持する」と語った。
サスケハナ・インベストメント・グループのデリバティブ戦略共同責任者クリス・マーフィー氏によると、長期国債に連動する「TLT」と呼ばれる上場投資信託(ETF) (O:TLT)に関する9日のデリバティブ取引からも、利回り上昇持続に対する懐疑的な投資家の姿勢をある程度うかがうことができた。TLTの値上がりと利回り低下を見込む「コールスプレッド」の買いが見えた点などだ。足元の反応が行き過ぎで、事態は市場が突然思いついたほど急速に進展しないことを意味しているという。
クレセット・ウエルス・アドバイザーズのジャック・アブリン最高投資責任者は、政治停滞が尾を引くとみられることが、財政政策に大きな動きが生じず、利回りもあまり変化しない根拠の1つになると説明した。
さらにアブリン氏は、大統領・議会選の結果を受け、追加経済対策は1兆ドルから1兆5000億ドルと民主党大勝シナリオで想定された規模より小さくなると見込むとともに、逆に景気支援の面でFRBの金融政策にかかる負担はかなり増大すると述べ、これが金利低下圧力になると示唆した。
トールバッケンのパーブス氏は、ワクチン実用化にめどが立ったと考えた議会が追加対策規模縮小で合意した後に、肝心のワクチンが期待外れに終わるというリスクがあると警告。その場合は経済成長が追い風となる資産の足場がもろくなり、今のような米国債売りは続かないのではないかとみている。
(Kate Duguid記者)