Takahiko Wada
[下関市(山口県) 6日 ロイター] - 日銀の高田創審議委員は6日、山口県金融経済懇談会であいさつし、賃金・物価を巡る企業の行動に変化の兆しが生じているものの、2%物価目標の実現には「まだ距離がある」として現行の大規模な金融緩和を粘り強く続ける必要があると述べた。ただ、先行きの経済・物価情勢次第で、不確実性に備えて機動的な対応をとることも必要だと指摘した。
高田委員はまた、米欧の利上げで海外経済が大幅に減速すれば、日本経済への下押し圧力が強まるリスクがあると警戒感を示した。
7月のイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化を巡っては「短期、長期とも実質金利は歴史的に見てもきわめて低く、強力な金融緩和が続いている点は変わらない」と指摘。今後も、債券市場の安定確保のため、モニタリングなどを通じて市場の状況をきめ細かく把握していくとした。
<賃金、「非線形的に高まりだす可能性」>
高田委員は、賃金の先行きに強気な見方を示した。約30年ぶりに物価上昇に配慮した賃上げの動きが見られたが「こうした動きが来年以降も続く可能性が考えられる」と述べた。
一般に賃金はいったん上昇すると下がりづらいとされ、高田委員は、賃金上昇が持続的に物価を押し上げやすいと指摘した。さらに、労働需給が逼迫して「閾値(いきち)」を超えれば、賃金上昇率が「非線形的に高まりだす可能性もある」と述べ、賃金上昇率が急拡大する可能性に言及した。
インフレ率と需給ギャップの相関関係である「フィリップスカーブ」について、海外発の原材料価格の高騰、今年の春闘での高い賃上げ率という物価への2段階の「ビッグ・プッシュ」に次いで、予想物価上昇率の底上げによって「上方シフトし始めた可能性もある」とした。
高田委員は名目GDP(国内総生産)の伸びにも言及した。「売上、利益、給与など、企業活動は名目値であるだけに名目値の拡大は大きな意味がある」と指摘。価格を据え置くとの固定観念を脱し、一定のマージン確保といった新たな発想を通じて、企業を起点とする好循環の実現が期待されると語った。
名目GDPを巡っては、中村豊明審議委員も8月31日の岐阜県での懇談会のあいさつで、それぞれの経済主体の実感に近いとして名目GDPの成長の重要性を強調している。
(和田崇彦 編集:石田仁志、田中志保)