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焦点:消耗するウクライナ防空システム、西側支援でも充足できず

発行済 2022-12-24 08:14
更新済 2022-12-24 08:19
© Reuters.  12月22日、コードネーム「ジュース」と名乗るウクライナ空軍戦闘機パイロットは、旧ソ連が開発したミグ29で出撃し、飛来したロシアの巡航ミサイルのうち2発をロックオンした

[キーウ 22日 ロイター] - コードネーム「ジュース」と名乗るウクライナ空軍戦闘機パイロット(29)は5日、旧ソ連が開発したミグ29で出撃し、飛来したロシアの巡航ミサイルのうち2発をロックオンした。しかし、大都市に近かったため撃墜できず、任務を委ねられた地上の防空部隊が見事に撃ち落とした。

ウクライナ軍は10月以降、地上防空部隊がロシアのミサイル数百発を撃墜、電力網の破壊を狙うロシア軍の作戦に大きな痛手を与えている。

一方、ウクライナではこうした小規模な戦闘が日常化しており、そのすう勢はウクライナ国民数百万人の生活に直結する。防衛に失敗すれば、国民は暖房も電気も水もないまま凍える冬を過ごさなければならない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日に訪米し、米軍の主力地対空ミサイルシステム「パトリオット」のバッテリーなど兵器の供与を強く求めた。

エネルギー関連施設を標的とした攻撃により、ウクライナでは日常生活に支障が生じている。影響は病院や学校に及び、経済のまひがさらに進みかねない。商店や重工業は事業継続が困難になり、既に今年は経済が少なくとも3割縮小するとみられている。

ロシアは10月10日以降、9回にわたり大規模な空爆を実施。電力、水道、携帯電話の電波送信、暖房に深刻な打撃を与えた。ロシアは通常、大規模空爆の際に1回当たり70発余りのミサイルを発射する。

ウクライナのデータを基にしたロイターの計算によると、ウクライナのミサイル撃墜率は約50ー85%で、最近ではこの高い方に近い。16日に行われた最新の空爆では、飛来したミサイル76発のうち60発を撃墜したという。

それでもミサイル攻撃は深刻な被害をもたらし、ウクライナは全土で緊急停電の実施を余儀なくされ、首都キーウ地区の大部分は数日間にわたり停電と断水が続いている。

<いたちごっこ>

ウクライナの防空部隊は、イタリアの2倍の面積を持つ国土に広く薄く展開、主に都市や主要インフラ近くに配備されており、「ジュース」氏のような戦闘機パイロットはその間の広大な区域をカバーするので負担は極めて重い。「ジュース」氏が乗るミグ29は1991年に製造された老朽機で、同氏はまだ、ドローンやミサイルを1つも撃ち落としていない。

旧式レーダーでは目標の捕捉が難しい。特にイラン製ドローン「シャヘド」は飛行速度が遅く、レーダーの画面には移動中のトラックのように映り、発見が困難だ。

ウクライナ空軍のYuriy Ihnat報道官によると、ミサイルとドローンの撃墜は大部分が地上部隊によるもの。「ミサイルもドローンもレーダーから消えるように、できるだけ低空で、川の流れに沿って飛行する。十分低空で飛行できれば画面からいったん全く消えてしまい、再び現れる。いたちごっこだ」と話す。

防空部隊は1カ所にとどまっておらず、「全土をカバーすることはできない」という。

<減少するミサイル備蓄>

ウクライナ軍情報部門のトップは、ロシアが保有する高精度な兵器の備蓄は、あと数回の大規模空爆の実行に耐えられる程度だと推測している。

だが、ウクライナ政府関係者も、ロシアの侵攻から10カ月が経過し、防衛兵器の備蓄が減っていることを認めている。

Ihnat氏によると、ウクライナは西側諸国から米国の「NASAMS」やドイツの「IRIS―T」など防空システムの提供を受けているが、国内防空システムの中核を成しているのは、依然として旧ソ連時代のシステムだ。

「われわれが保有する旧ソ連の防空システムは地対空ミサイルのS―300とBUKを基盤としており、枯渇しつつある。これらのシステムは交換部品が全てロシア製であるため、いつまでも維持することはできない」という。

Ihnat氏と、ウクライナ軍の防空訓練部門の幹部Denys Smazhnyi氏によると、ウクライナに供給された西側の防空システムは順調に機能しているが、供給量は必要な水準に遠く及ばない。

Smazhnyi氏は「ロシア製の兵器は老朽化し、迎撃ミサイルも減っている。数日や数週間で使い果たすとは言わないが、ロシアの攻撃の激しさ次第だ」と話した。

米政府は21日、ウクライナに対し、広域防空用地対空ミサイルシステム「パトリオット」を含む18億5000万ドル(約2400億円)の追加軍事支援を行うと発表した。

Smazhnyi氏は、パトリオットがあれば、現在ウクライナがさらされているようなミサイル攻撃を防御できると話す。

Ihnat氏は、ドイツの「IRIS―T」の生産は最大のペースで進められており、ウクライナは米国の「NASAMS」を最大限入手するよう努めるべきだと話す。

「冬に入り1カ月たった。あと1カ月ある。そして2月は短い。われわれは生き残れるだろう。発電機よりもミサイルを供給すべきだ」と、Ihnat氏は指摘した。

流ちょうな英語を話す前出のパイロットの「ジュース」氏によると、ウクライナ空軍の同僚の多くが自由時間に英語の授業を受けている。ウクライナ軍がいつか、米軍のF16戦闘機のような西側マルチロール機の供給を受けることになると考えてのことだという。

© Reuters.  12月22日、コードネーム「ジュース」と名乗るウクライナ空軍戦闘機パイロットは、旧ソ連が開発したミグ29で出撃し、飛来したロシアの巡航ミサイルのうち2発をロックオンした。写真は23日、ロシアのミサイル攻撃で破壊されたザポロジエ州の病院を捜索する救助隊員ら(2022年 ロイター)

これまでのところ、F16戦闘機の供給について合意が近づいている兆候はなく、Ihnat氏はパイロットたちは自分たちの考えで行動していると説明した。

「遅かれ早かれ、F16やその他の戦闘機に乗り換えることになると皆思っている。英語が必要になる」

(Tom Balmforth記者)

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