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焦点:ウクライナの児童養護制度、戦時下で厳しい選択に直面

発行済 2022-04-03 10:23
更新済 2022-04-03 10:27
© Reuters.  ロシア軍の侵攻から逃れたニーナさんが先週16歳の誕生日を迎えたのは、ウクライナ東部にいる家族や友人から遠く離れたリビウにある児童養護施設だった。写真はリビウの児童養護施

[リビウ 28日 ロイター] - ロシア軍の侵攻から逃れたニーナさんが先週16歳の誕生日を迎えたのは、ウクライナ東部にいる家族や友人から遠く離れたリビウにある児童養護施設だった。

ニーナさんを含む23人の子どもたちは、1000キロ以上も離れた東部の前線に近いリシチャンスクにある別の児童養護施設から避難してきた。ニーナさんはリシチャンスクでの友人たちを懐かしがり、いつまた会えるか分からないと嘆く。

「いつも遊びに来てくれた。一緒に色んなことを乗り越えてきたのに」

ニーナさんは、昨年2月に家出した。父親が亡くなった後、母親が酒に浸り、男性らを家に連れ込むようになったからだ。

当初は友達と暮らしていたが、家出したことが学校に知られ、昨年のうちにウクライナの大規模な児童養護制度の対象となった。

ウクライナは、公立の養護施設で暮らす子どもの数が欧州で最も多い。理由は主として、家計がひどく苦しいか、育児が成り立たないほど家庭が崩壊しているためだ。

ニーナさんは故郷に戻って母親と暮らしたいとは思っていないし、母親が彼女に家にいてほしいと考えているとも思えない。とはいえ、戦争のせいで彼女は遠い街に足止めされ、ひとりぼっちだ。

リビウの児童養護施設のスビトラナ・ハブリリュク所長と職員らは、ニーナさんをはじめ、担当している3歳から18歳までの子どもたちの世話に最善を尽くしているという。

ウクライナの大規模な児童養護制度は、政府が社会において重要な役割を担っていた旧ソ連時代の名残だ。だが今は、膨大な数の住民が戦火を逃れようと自宅を去り、親族の追跡が不可能になってしまう例も多いことに悩まされている。

国際連合児童基金(ユニセフ)によれば、ロシアの侵攻以前、ウクライナでは700カ所近い公立の児童養護施設、寄宿制学校、乳児院で暮らす子どもが10万人いた。

ウクライナ社会政策省による3月19日以降の最新データによれば、開戦以来、こうした子どもたちのうち約5000人が、国内・国外のより安全な地域に避難したという。

約3万1000人、つまり児童養護制度対象者のほぼ3分の1が、急遽、両親や法的後見人のもとに戻されたが、児童養護関係者や児童心理学者は、そうした措置に伴う固有の問題も発生していると指摘する。

ハブリリュク所長はロイターの取材に対し、「子どもたちは戦場になっている地域から来ている」と語った。「戦火の下でこの制度がうまく機能するかどうか、なんとも言えない。(略)親たちを見つけられるだろうか。彼らが存命かどうか誰に分かるのか。ここでも非常事態が生じたらどうするのか」

5歳のナスチャちゃんと、その兄弟である3歳半と7歳の男の子の母親に何が起きたのか知る者は、リビウの児童養護施設には誰ひとりいない。3人はニーナさんと同様、戦争が始まった2月24日に、リシチャンスクからいち早く逃れてきた。

ウクライナの西端に位置するリビウに3人を連れてきた児童養護職員のオルガ・トロノワさんは、自分が知っているのは、彼女たちが昨年末、アルコール依存症の母親のもとから連れてこられたということだけだと話す。それ以降、連絡をとってきた親戚はいなかったという。

トロノワさんの背後では、ピンクの上着、ピンクと白の帽子を身につけたナスチャちゃんが、戸外の遊び場に設けられた砂場で遊んでいた。兄弟たちは近くの滑り台に登ったり降りたりしていた。

<難しい判断>

ウクライナ国内の児童養護施設ネットワークで暮らす子どもたちの中には孤児もいるが、薬物中毒やアルコール依存症、児童虐待といった問題を抱える家庭から引き取られる例の方が多い。子どもたちの約半数には身体的・精神的障害がある。

養親を必要としている子どもたちの絶対数が多く、またウクライナで養子縁組の手続きに比較的時間がかからないことから、西側諸国の養親候補者にとってウクライナは馴染みの深い国だった。

米国政府の統計によれば、過去15年間、米国の養親が引き取った養子の出身国としてウクライナは欧州で首位となっている。

ただし、ユニセフや「セーブ・ザ・チルドレン」といった児童福祉団体は、以前からウクライナの児童擁護制度を疑問視してきた。家族が限界に達する前に支援することを可能な限り優先すべきである、というのがこれらの団体の持論だからだ。

そして今、養護施設にいる何万人もの子どもたちは、戦火によりさらなる混乱に見舞われている。

社会政策省によれば、3月19日の時点で、全体の約4分の1にあたる179カ所の公立の児童養護施設が避難を余儀なくされており、養護職員らは、子どもたちを戦場からより遠ざけるためであれば、親や法定後見人のもとに戻すべきかどうかという難しい判断を迫られている。

リビウの児童養護施設の子どもたちを支援している児童心理学者のオレクシイ・ヘリウク氏によれば、適切な審査なしに子どもたちを帰宅させることは有害無益になる可能性があるという。

「子どもたちが家庭から引き離されるのは、理由があってのことだ。平時に子どもたちのニーズが満たされていなかったのであれば、戦時ではさらに状況が悪化しかねない」

だが、社会政策省の管轄下でリビウ地域での児童保護行政を率いるウォロディミル・リス氏は、戦争という危険な状況の下では、管轄当局にとって選択の余地などほとんどない、と言う。

「最大のリスクは空爆で殺されることに決まっているではないか。(略)親がどんな人間であっても、それでも親であることには変わらない」

<独りで旅する子どもたち>

子どもたちが両親と暮らしていた場合でも、戦火による別離が生じている。複数の援助機関は、かなりの数の子どもたちが保護者を伴わずに、近隣諸国、あるいはさらに遠くの国へと移動していると警告している。

2014年以降ウクライナで活動している「セーブ・ザ・チルドレン」の児童保護専門家アマンダ・ブライドン氏は、「単独で旅する子どもたちが、最終的にスペインやイタリア、オランダ、ドイツにまで到着したという報告を受けている」と語った。

同氏は、こうした子どもたちが、欧州内の親戚や友人のもとを頼って移動している可能性もある、と語る。だが、懸念されるのは人身売買だ。

「残念ながら、こうした子どもたちを整然と登録・追跡するシステムは整っていない」と同氏は言う。「追跡を試みようとしても、かなり込み入ったシステムになっている」

リビウ地域の児童保護行政を担当するリス氏によれば、国際的な援助機関による国内外での支援のおかげで、開戦後数週間に比べて状況は改善されてきたと言う。

書類や記録の消失・破損が進む中で、ユニセフの推計ではこれまでに180万人の子どもたちが国外に逃れたとされているが、ウクライナ政府は国境での検問を強化し、コロナ禍による緊急事態のためにすでに混乱が生じていた養子縁組の手続きを停止した。

援助機関は、この措置を歓迎している。

「セーブ・ザ・チルドレン」のブライドン氏は、子どもたちを助けたいと切望する養親希望者からの問い合わせが「殺到している」ものの、法的基準が無視され、まだ存命の両親から子どもたちが引き離されるリスクもあると警告する。

そうなると、リビウにいる47人をはじめとする児童養護施設にいる子どもたちにとって、戦火が収まるのを待つ他になすすべはないのかもしれない。

戦争が始まったとき、リシチャンスクの児童養護施設に勤務していた養護職員のトロノワさんは、2月24日の明け方に受けた電話を鮮明に記憶している。

「オルガ、急げ!子どもたちを連れ出してくれ」電話の主は養護施設の所長だった。その後遠くで爆発音が聞こえたという。トロノワさんは、自分の家族は残したまま、子どもたちを急いで避難させた。

リビウまでは列車で3日間。最年少の子どもたちは体調を崩した。「ここに着いたときは皆が吐き気を訴え、嘔吐や発熱が見られた」とハブリリュク所長は語った。

その後、トロノワさんをはじめとする養護職員らは、大学生ボランティアたちに助けられ、平静さと落ち着きの感覚を取り戻そうとしている。

子どもたちは、十分な食事を与えられ、青と緑の壁に花や木や動物が描かれたこざっぱりとした宿舎で眠っている。

戦前は挨拶もほとんど交わさなかった近隣の住民が、食料や衣服、おもちゃを施設にたくさん提供してくれた。ロイターが取材に訪れた日には、ポーランドの慈善団体が「Courage(勇気)」と書かれたテディベアのぬいぐるみをフランスから送ってくれた。

リビウは他の都市よりは比較的落ち着いているが、それでも夜間には空襲警報が鳴り響くこともあり、戦争は決して遠い場所の出来事ではない。

「子どもたちは眠っていても、サイレンが鳴ると泣き叫ぶ」とハブリリュク所長は語る。

リシチャンスクから来た23人の子どもたちのうち、2人の例外を除く全員が、まだ法的には両親の親権下にある。平時であれば、家族から親権を剥奪するかどうかは裁判所の判断による。

精神的な問題を抱えるティモフェイくん(11)は、あと2日で養親に引き渡されるところだったが、リビウに避難したために白紙となった。

「ティモフェイはとても怒っている」とトロノワさんは語る。「自分や子どもたちが今後どうなるのか、まったく予想できない。私たちの行く末は神の御心のままだ、としか言えない」

(Silvia Aloisi記者、Margaryta Chornokondratenko記者、ZohraBensemra記者、翻訳:エァクレーレン)

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