[クアラルンプール 26日 トムソン・ロイター財団] - 2030年までに自然災害の発生は世界全体で1日当たり1.5回、年間で560回に達する見通しで、人類は温暖化助長やリスク無視を通じて「自己破壊の連鎖」に陥り、貧困層を何百万人も増やし続けている──。国連防災機関(UNDRR)は26日公表した「自然災害の世界評価報告書」でこう警鐘を鳴らした。
報告書は2年に1回まとめられ、今回は5月にインドネシアのバリ島で開催の「防災に関するグローバル・フォーラム」を前に公表された。それによると、過去20年で年間350回から500回の中規模・大規模な災害が起きたが、各国はそれらが人命や生活に及ぼす本当の影響を「根本的に」過小評価してきた。UNDRRトップの水鳥真美氏は報告書で「真実を語ることによる警告は必要なばかりか不可欠でもある」と強調した。
水鳥氏はトムソン・ロイター財団に「科学は明快だ。災害による被害が発生する前に行動する方が、起きた後で対応するよりコストが小さくなる」と訴えた。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年、熱波から干ばつ、洪水に至る気候変動の被害はより発生頻度が高まり、甚大になって、自然環境や人類とその生活場所にダメージを与えるだろうが、温室効果ガス排出量削減と温暖化に順応する取り組みは遅れていると警告した。
UNDRRによるこの報告書も、過去5年で自然災害の発生が増え、規模も大きくなったため、その前の5年間より死者や被害者が増えただけでなく、30年までにあと1億人が貧困化する恐れがあると記している。
報告書が対象としている災害は、洪水や干ばつ、大嵐、地震、疫病など多種多様。国連のアミナ・モハメド副事務総長は声明で「人類の生活や建設、投資といった活動が自己破壊の連鎖に向かおうとしている中で、世界は自然災害リスクをこうした構図に組み込むためにもっと努力しなければならない」と述べた。
<途上国にしわ寄せ>
報告書によると、過去10年で自然災害がもたらした損害額の年平均は約1700億ドルで、途上国と最も貧しい人々が不相応な苦しみを味わっている。また途上国が自然災害で被った損害額の年平均は国内総生産(GDP)の1%と、高所得国の10倍を超える。特にアジア太平洋地域の損害額はGDPの1.6%と最大だった。
例えばフィリピンは、数百万人がまだ台風22号(ライ)の被害復旧途上にある。この台風では300人余りが死亡し、数十万人が家を失うなどの事態となり、損害額はおよそ5億ドルに上る。
支援団体ケア・フィリピンのプロジェクトマネジャー、マリー・ジョイ・ゴンザレス氏は、一番弱い立場の人たちを助けるために、政治家や政策担当者はもっと踏み込んだ気候変動対策を打ち出し、グリーンエネルギーへの移行を加速すべきだと提言。異常気象の脅威に最もさらされているのは都市部の貧困地域や限界集落、孤立集落だとの見方を示した。
国際赤十字・赤新月社気候センターのディレクター、マールテン・ファン・アールスト氏は、各国がそれぞれの危機を個別の予期しない出来事として扱うのをやめて、気候変動の脅威に協調して取り組めるようなシステムを構築する必要があると語り、「悲しいことに最悪の影響を受ける人たちは増大する被害に対処するための資源が最も少ない。リスクを本当に減らすには、格差是正も必須になる」と付け加えた。
UNDRRの水鳥氏は、多くの途上国が債務増加やインフレのほか、新型コロナウイルスのパンデミックが経済にもたらした悪影響となお格闘している点を踏まえ、国際支援の拡大を要請した。「これらの国が、さまざまな災害リスクを防ぎ、強じんな態勢を構築できるようにするには、現在よりずっと大規模な国際支援が求められる」という。
(Beh Lih Yi 記者)