[リオデジャネイロ 29日 トムソンロイター財団] - ブラジル最西部、アマゾン川流域の都市・タバティンガ。刑務所の壁には麻薬密売人の落書きがあり、監房の半分にはコカイン取引で縄張り争いを繰り広げる犯罪組織のメンバーが収監されている。この街では最近、とみに殺人事件が増えている。
「毎日のようにだれかが殺害された写真が送られてくる。ほとんどは麻薬絡みの借金や争いに関係するものだ」と語るのは、囚人の援助に当たるカトリック教会の司祭、オクタビアノ・ゴンドス氏だ。
身の毛もよだつ写真は、密売組織のメンバーが対立組織を脅すためにソーシャルメディアで拡散していると、ゴンドス氏は説明した。
コロンビア、ペルー両国と国境を接するタバティンガは、先住民の居住地域であるジャバリ渓谷への入り口でもある。ここでは今年6月初め、先住民専門家のブルーノ・ペレイラ氏と英国人ジャーナリストのドム・フィリップス氏が殺害された。
2人の殺害事件はアマゾン川流域における凶悪犯罪の増加を印象付け、密林奥地での違法な森林伐採や密漁、採鉱といった「環境犯罪」と、麻薬密売人らが結びついているとの懸念に火を点けた。
米財務省高官は今月、ブラジルの主要なコカイン密売組織・PCCと、アマゾンにおける違法な金の採掘との関係について憂慮すべき情報を得たと述べている。
ペレイラ、フィリップス両氏の殺害事件で逮捕された複数の容疑者は、自分たちと密漁との関係を指摘した。警察が密漁と麻薬密売との関係を捜査しているが、まだ、明確なつながりは確認できていない。
ブラジル連邦警察の幹部、アレクサンドレ・サライバ氏は「こうした状況は目新しくはないし、ブラジルに限った話でもない。犯罪組織やマフィアは楽に稼げる所なら、どこへでも行く。金の(違法)採掘で稼いだカネは麻薬に投資するし、その逆もやる。州の手の届かないところで犯罪資金が循環している」と説明した。違法な森林伐採との闘いに取り組んだサライバ氏の名前は、PCCの「殺害予定者リスト」に載っているという。
<手軽に資金洗浄>
当局による犯罪の監視と制裁が緩められたことで、違法な環境破壊活動が麻薬密売組織にとって魅力的な「副業」、もしくはマネーロンダリング(資金洗浄)の手段になったと専門家は言う。特にボルソナロ政権下のここ数年間でその傾向が強まった。
シンクタンク、イガラペ研究所の調査ディレクター、メリーナ・リッソ氏は「環境犯罪の資金を手軽にロンダリングできるようになった」と話した。
ペレイラ、フィリップス両氏の殺害事件後に設けられた議会委員会には、国境をまたぐ犯罪組織が麻薬資金をロンダリングするために地元の川の魚を買い上げており、特に2種類の魚の需要増加につながっているとの報告が寄せられた。
ジャバリ渓谷の先住民組合の法定代理人、エリエシオ・マルボ氏は、麻薬密売人らと環境犯罪との結合が強まっていることを考えれば、この地域で凶悪犯罪が急増している理由は、ある程度説明がつくと言う。
マルボ氏はトムソンロイター財団の電話取材に応じ「銃犯罪と処刑が爆発的に増えている。これは、この地域に広がる紛争の雰囲気を反映している」と語った。
ブラジルのアマゾン川一帯における殺人件数の増加ペースは、全国平均を大幅に上回っている。
非営利組織・ブラジル公共治安フォーラムの年次報告書を見ると、大半がアマゾン川流域である同国北部地域の殺人発生率は2021年に62%上昇した一方、全国では9.3%低下している。
<ボルソナロ政権下で監視弱まる>
ボルソナロ政権下で環境や警察、先住民関連の監督機関が解体されたことが、環境および麻薬関連の凶悪犯罪の急増を招いたと、マルボ氏ら先住民指導者は指摘している。
マルボ氏は、アマゾン川流域の犯罪の多さは今に始まったことではないと認めつつも、ボルソナロ氏が「この地域で機能していた全ての機関を弱めてしまった」と言う。
今年10月に大統領選を控え、ボルソナロ氏は支持率で対立候補にリードを許している。
マルボ氏は、大統領選の結果がどうなろうとも、ジャバリ渓谷の先住民指導者らは警戒を解かない姿勢だと強調。「ウニバジャ(ジャバリ)の『顔』である多くの人々が、自身の命を守るために州や国を離れざるを得なかった。だが、われわれは当局に情報を提供し続ける」と語った。
(Andre Cabette Fabio記者)