*10:24JST 秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。
7月25日に秦剛(しん・ごう)前外相が解任され、後任に中国外交のトップである王毅(おう・き)政治局委員が任命された。
秦剛氏解任に関してはさまざまな噂が飛び交っているが、「なぜ国務委員には残っているのか」に関する回答を持っている人はいないようだ。
答えは実に簡単。
中国政治を真に理解している人なら、すぐにわかるはずだ。
◆秦剛氏が外相を解任されながら、国務委員に残っているわけ
7月25日、習近平国家主席はが4月26日付けで習近平国家主席の名において発布され、内容が公開された。
2014年の反スパイ法との違いは主として、2023年版第二条に書いてある「国家安全観」に関してだ。
「国家安全観」というのは基本的に、【外部からの干渉と「カラー革命」の扇動に脅かされないこと】を指している。
これはアメリカがネオコン(新保守主義)の主導下で1983年に設立したNED(全米民主主義基金)の暗躍のことを指す。
この大きな国家方針の線上で、「さらにもう一歩進めた綿密な身体検査」が細部にわたって実施された。
その中の一つが秦剛事件であって、三期目の国家主席の職位を手にするほどの絶大な権力を持っている習近平が、外交部内部の権力闘争ごときに左右されると思うのは、中国政治の実態を知らな過ぎるとしか言いようがない。
もっとも、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※5)の第一章で書いたように、中共中央委員会委員や中共中央政治局委員あるいは中共中央政治局常務委員会委員(チャイナ・セブン)をノミネートする段階で、どれだけ長期間かけて身体検査をし適性を協議するか、その念の入れようは尋常ではない。
その後に投票にかけるという筋道を通しながら、反スパイ法改正案が発布された4月以降に再チェックを行った結果、次から次へと不適合者が出ている。
秦剛も、不倫相手がスパイ活動を行っていたというのを事前にチェックし切れなかったことが主な原因だろう。
習近平の落ち度と、身体検査を担った関係者の落ち度は、計り知れないほど大きく、秦剛を信頼した習近平としては大きな痛手を受けているはずだ。
◆NED(全米民主主義基金)の中国における暗躍
台湾や香港を含めた「中国」において、NEDがこれまでどれだけ暗躍してきたかに関しては拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)の第六章で詳述した。
ここで「CIA」と書いたのは、NEDが「第二のCIA」と呼ばれているからで、「NED」と書いたのでは知名度が低く、日本の読者には伝わらないかもしれないと危惧したからだ。
第六章の【図表6-2 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や【図表6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】をご覧いただければ一目瞭然なように、NEDは何とかして中国政府を転覆させるべく、中国に深く潜って「民主化運動」を支援してきた。
それらのデータは、すべてNEDのウェブサイトから拾い出したものだが、実はこのたび新たにNEDが出している年次報告(Annual Report)があるのを発見したので、既に削除されているものもあるが、何とか見つけ出して新たなデータを入手することができた。
その中の中国に関する2021年版のデータによれば、NEDのプロジェクト対象は「中国本土、香港、チベット、新疆ウイグルおよび中国全域」となっており、「中国本土(mainland china)」(※7)には5,576,268米ドル、「香港(hong kong)」(※8)には434,450米ドル、「チベット(tibet)」(※9)には1.048,579米ドル、「新疆ウイグル(xinjiang)」(※10)には2,578,974米ドル、「中国全域(china regional)(※11)(各地域をつなぐもの)」には600,000米ドルが、それぞれ民主化運動資金として注がれている。
2021年の対中国プロジェクトの合計は10,238,271米ドルだ。
この年次合計は習近平政権になってから増えており、特に2020年における香港やウイグルでの民主化運動支援金が多い。
民主化運動支援金は、今から民主化運動を起こして現存の政府を転覆させるために使われるものなので、台湾に関しては、むしろ2003年にNEDにより「台湾民主基金会」を設立したので、台湾に資金を出させる形でアメリカ寄りの政権を誕生あるいは維持させるためにNEDと共同で大会を開催したり、アメリカの政府高官を派遣したりするなどの活動を行っている。
中国に対するNEDの活動の推移に関しては、追って別のコラムでご紹介したい。
以上より秦剛事件は、大きな枠組みとしては、習近平政権とNEDとの闘いの結果であることが見えてくるが、外相というのはあくまでも中共中央外事工作委員会の結果を受けて実務的に動くだけなので、誰が外相になろうと、中国の外交方針が変わることはない。
なお、もし中央紀律検査委員会の調査の結果、嫌疑が固まれば、解任した理由などを公表するのが中国のこれまでの慣わしなので、解任理由を現段階で明らかにしないのは少しも不思議なことではない。
ただ嫌疑の如何(いかん)によっては、国務委員職を含めた全ての公民権の剥奪もあり得る。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.xinhuanet.com/2023-07/25/c_1129767582.htm
(※3)https://grici.or.jp/4404
(※4)https://grici.or.jp/4415
(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/
(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※7)https://www.ned.org/region/asia/mainland-china-2021/
(※8)https://www.ned.org/region/asia/hong-kong-china-2021/
(※9)https://www.ned.org/region/asia/tibet-china-2021/
(※10)https://www.ned.org/region/asia/xinjiang-east-turkestan-china-2021/
(※11)https://www.ned.org/region/asia/china-regional-2021/
<CS>
7月25日に秦剛(しん・ごう)前外相が解任され、後任に中国外交のトップである王毅(おう・き)政治局委員が任命された。
秦剛氏解任に関してはさまざまな噂が飛び交っているが、「なぜ国務委員には残っているのか」に関する回答を持っている人はいないようだ。
答えは実に簡単。
中国政治を真に理解している人なら、すぐにわかるはずだ。
◆秦剛氏が外相を解任されながら、国務委員に残っているわけ
7月25日、習近平国家主席はが4月26日付けで習近平国家主席の名において発布され、内容が公開された。
2014年の反スパイ法との違いは主として、2023年版第二条に書いてある「国家安全観」に関してだ。
「国家安全観」というのは基本的に、【外部からの干渉と「カラー革命」の扇動に脅かされないこと】を指している。
これはアメリカがネオコン(新保守主義)の主導下で1983年に設立したNED(全米民主主義基金)の暗躍のことを指す。
この大きな国家方針の線上で、「さらにもう一歩進めた綿密な身体検査」が細部にわたって実施された。
その中の一つが秦剛事件であって、三期目の国家主席の職位を手にするほどの絶大な権力を持っている習近平が、外交部内部の権力闘争ごときに左右されると思うのは、中国政治の実態を知らな過ぎるとしか言いようがない。
もっとも、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※5)の第一章で書いたように、中共中央委員会委員や中共中央政治局委員あるいは中共中央政治局常務委員会委員(チャイナ・セブン)をノミネートする段階で、どれだけ長期間かけて身体検査をし適性を協議するか、その念の入れようは尋常ではない。
その後に投票にかけるという筋道を通しながら、反スパイ法改正案が発布された4月以降に再チェックを行った結果、次から次へと不適合者が出ている。
秦剛も、不倫相手がスパイ活動を行っていたというのを事前にチェックし切れなかったことが主な原因だろう。
習近平の落ち度と、身体検査を担った関係者の落ち度は、計り知れないほど大きく、秦剛を信頼した習近平としては大きな痛手を受けているはずだ。
◆NED(全米民主主義基金)の中国における暗躍
台湾や香港を含めた「中国」において、NEDがこれまでどれだけ暗躍してきたかに関しては拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)の第六章で詳述した。
ここで「CIA」と書いたのは、NEDが「第二のCIA」と呼ばれているからで、「NED」と書いたのでは知名度が低く、日本の読者には伝わらないかもしれないと危惧したからだ。
第六章の【図表6-2 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や【図表6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】をご覧いただければ一目瞭然なように、NEDは何とかして中国政府を転覆させるべく、中国に深く潜って「民主化運動」を支援してきた。
それらのデータは、すべてNEDのウェブサイトから拾い出したものだが、実はこのたび新たにNEDが出している年次報告(Annual Report)があるのを発見したので、既に削除されているものもあるが、何とか見つけ出して新たなデータを入手することができた。
その中の中国に関する2021年版のデータによれば、NEDのプロジェクト対象は「中国本土、香港、チベット、新疆ウイグルおよび中国全域」となっており、「中国本土(mainland china)」(※7)には5,576,268米ドル、「香港(hong kong)」(※8)には434,450米ドル、「チベット(tibet)」(※9)には1.048,579米ドル、「新疆ウイグル(xinjiang)」(※10)には2,578,974米ドル、「中国全域(china regional)(※11)(各地域をつなぐもの)」には600,000米ドルが、それぞれ民主化運動資金として注がれている。
2021年の対中国プロジェクトの合計は10,238,271米ドルだ。
この年次合計は習近平政権になってから増えており、特に2020年における香港やウイグルでの民主化運動支援金が多い。
民主化運動支援金は、今から民主化運動を起こして現存の政府を転覆させるために使われるものなので、台湾に関しては、むしろ2003年にNEDにより「台湾民主基金会」を設立したので、台湾に資金を出させる形でアメリカ寄りの政権を誕生あるいは維持させるためにNEDと共同で大会を開催したり、アメリカの政府高官を派遣したりするなどの活動を行っている。
中国に対するNEDの活動の推移に関しては、追って別のコラムでご紹介したい。
以上より秦剛事件は、大きな枠組みとしては、習近平政権とNEDとの闘いの結果であることが見えてくるが、外相というのはあくまでも中共中央外事工作委員会の結果を受けて実務的に動くだけなので、誰が外相になろうと、中国の外交方針が変わることはない。
なお、もし中央紀律検査委員会の調査の結果、嫌疑が固まれば、解任した理由などを公表するのが中国のこれまでの慣わしなので、解任理由を現段階で明らかにしないのは少しも不思議なことではない。
ただ嫌疑の如何(いかん)によっては、国務委員職を含めた全ての公民権の剥奪もあり得る。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.xinhuanet.com/2023-07/25/c_1129767582.htm
(※3)https://grici.or.jp/4404
(※4)https://grici.or.jp/4415
(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/
(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※7)https://www.ned.org/region/asia/mainland-china-2021/
(※8)https://www.ned.org/region/asia/hong-kong-china-2021/
(※9)https://www.ned.org/region/asia/tibet-china-2021/
(※10)https://www.ned.org/region/asia/xinjiang-east-turkestan-china-2021/
(※11)https://www.ned.org/region/asia/china-regional-2021/
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