■中長期の成長戦略2. 事業ポートフォリオマネジメント(1) 事業ポートフォリオマネジメントの考え方:4つのグループに分類鴻池運輸 (T:9025)では、新たにインド事業と新事業開発を加え、今後の事業を展開する計画だが、そこに「事業ポートフォリオマネジメント」の考え方を取り入れる。
すなわち、それぞれの事業の特性により、これらを以下の4つの事業グループに分け、それぞれのグループごとに目標を定め、それに向かって事業を遂行していく。
a) キャッシュカウ事業:キャッシュを稼ぐ事業(鉄鋼、食品(食品)、食品プロダクツ、生活(生活))b) ROIC改善事業:生産性を向上させ、利益率を改善する必要がある事業(生活(物流)、食品(低温)、メディカル(国内)、海外)c) 成長事業:規模を拡大させる必要がある事業(空港、環境・エンジニアリング、インド事業(メディカル、鉄道)d) 新技術:事業領域の拡大(新事業開発)(2) 事業ポートフォリオ:現状と方向性同社の決算説明資料(2019年3月期第2四半期)によれば、同社の現在の平均ROICは4.8%となっており、WACC(加重平均資本コスト)の5.1%を下回っている。
すなわち、現在の状況のまま事業を続けても同社の企業価値は向上しないことになる。
また各事業の売上高成長率とROICの関係を見ると、今後ROICを向上させるためには、キャッシュカウに分類される事業は引き続き現在の収益性を維持し、ROIC改善事業は生産性の向上(ROICの改善)を最優先課題とし、成長事業に分類される事業は積極的に規模の拡大に取り組むことが重要となってくる。
2030年にROE10%以上を目標としているが、当社の試算ではグループのROICは6%以上に設定していると推測する。
今後は成長企業の売上高成長率とキャッシュカウ事業のキャッシュ創出力に着目したい。
3. 成長分野の紹介(1) 環境・エンジニアリング事業2018年4月から鉄鋼事業本部の環境事業、機工・保全業務、海外事業本部のプラント関連業務を統合し、環境・エンジニアリング本部として発足。
足元では従来の鉄鋼関連の環境事業、機工・保全事業をさらに強化。
長期的には、これまで培ってきたエンジニアリング事業を様々な業種に展開し、将来的には設計・調達・建設を一気通貫で行う能力を獲得する。
またM&Aなどを通じて必要な人材・ノウハウの増強に努める。
(既に2018年6月に電気・計装に強みを持つエヌビーエス(株)をグループ会社化した。
)(2) インド事業a) 鉄道コンテナ輸送事業日系企業で唯一、インドで鉄道コンテナ輸送事業を手がけている。
事業の流れとしては、まず同社が日本からインド西側の3港(ナバシェバ港、ピパバブ港、ムンドラ港)まで荷物を運び、そこからデリー近郊のICD(コンテナ貨物を内陸で受け流しできる保税場所)までJKTI(同社とACTLとの鉄道コンテナ輸送合弁会社)が鉄道コンテナで輸送する。
ICDでは北インド初の民間ICD運営会社であるACTL(現地合弁先)が荷役(積み替え)を実施、その後KAI(2012年に同社が設立したフォワーディング現地法人)が最終目的地(生産拠点や消費地)まで輸送する。
このように、これら3社の連携により日系企業で唯一のインド鉄道コンテナ輸送を2017年3月から実施している。
JKTIは現在、8編成(1編成=45両=90TEU積載可)で週7便を運行している。
このうち2編成を2018年4月から自社車両に切り替えたが、この後1~2年内に自社車両2編成を追加導入の予定。
現地では、デリー~ムンバイ間の貨物専用鉄道の敷設が国家事業として進展中で、2020年の開業後には走行速度は3倍、輸送能力は4倍に拡大される。
内陸部の長距離輸送が不可避のインドでは今後さらに鉄道による輸送の拡大が期待されている。
b) メディカル事業1) データベース事業:2013年11月、インドにCarna Medical Database PVT. LTD.を設立。
そこで、インド医療材料の標準コードを制定し、医療材料データベース構築に取り組んでいる。
全インド医療材料総合カタログ(第2版)を発行済みで、38,000アイテム以上を掲載、さらに病院部署別に分類され、QRコードにて商品情報の読み取りが可能となっている。
2) 高付加価値医療センター:日本で培ってきた医療サービスの技術やノウハウを集約した医療センターの設立構想を推進している。
4. 新事業開発本部の役割と技術革新への対応同社では、外部環境の変化と同社の強み・弱みを合わせた戦略を考えた場合、必ず「技術革新への対応」が必要と考えている。
技術革新によって、現在の同社の多くの事業が人口知能(AI)やロボット等によって代替が可能になるからだ。
さらに技術革新のその先には価値革新があり、「新たな市場創造」へ進むと考えられる。
(1) SIer企業との協業新たな価値創造として同社が検討を進めているのが、「SIer企業との協業」だ。
SIerとは言うまでもなくITベンダーのことである。
同社がSIerとの協業を考えるのは、新技術を最大限に活用するためには、現場に精通したコーディネーターが不可欠だからだ。
(2) 顧客業界のロボット導入に強みを生かす自動車業界などではロボットは既に普及し、ロボット導入に対応できる生産技術者も揃っており、既存のロボットメーカーや大手SIerがカバーしている。
しかしながら、同社の顧客や取引先においては、今後ロボットやAI等といった新しい技術を取り入れる余地は多くあると考えられる。
このように、ロボット導入のニーズはあるが、対応できる生産技術者が不足している。
その一方で、ロボットメーカーや大手SIer側では、更に現場に通じた見立てもまだ十分ではなく導入を積極的に推進できていない。
そこで同社では、SIerの持つロボットに関する能力と同社グループが持つ現場の知見を合わせることで、新たなサービスが提供できうると考えられており新たな価値創造が期待される。
(3) 今後の具体的な方針a) 多面的な業種に対応できる大手SIerとの協業の可能性を探る。
b) 製造業をターゲットにしたSIerとしてのノウハウの蓄積と、技術者の養成を始め人材育成を進める。
c) 同社自身が技術革新に取り組む(AIや認識カメラの導入など)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)