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焦点:トヨタ、半導体不足で発揮した抵抗力 震災10年 供給網寸断の教訓

発行済 2021-03-09 09:55
更新済 2021-03-09 10:00

白水徳彦

[9日 ロイター] - トヨタ自動車が半導体という基幹部品の調達体制を見直したのは今から10年前、東日本大震災の影響で生産調整に追い込まれたのがきっかけだった。発注してから納品までのリードタイムが長い半導体は、いざというときに備えて十分な在庫を確保しておく必要があると認識した。長年にわたり社内に蓄積してきた半導体への知見と相まって、トヨタは生産が止まりかねない「有事」への抵抗力を身に着けた。

ロイターは、事情に詳しい複数の関係者に取材。足元で世界的な半導体不足が広がり、自動車各社が減産する中、在庫を極力持たないジャスト・イン・タイム方式の先駆者として知られるトヨタの生産に、大きな支障が出ていない背景が浮かび上がってきた。

<「対応できているのはトヨタだけ」>

車載情報システムや高級オーディオを手掛けるハーマン・インターナショナルは、昨年11月ごろから製品に使う中央演算処理装置(CPU)やパワー半導体の不足を感じるようになった。しかし、トヨタ向けに納める製品に必要な半導体については、4カ月分以上の在庫を調達済みだったと、ハーマンとトヨタの取引に詳しい関係者は話す。トヨタとの間で結んでいる契約のためだった。

半導体は昨年から今年にかけ、世界的に需要が一気に高まった。高速通信規格5Gの整備が本格化し始めたところに、新型コロナウイルス禍でリモート勤務が広がり、パソコンなどデジタル機器の出荷が伸長した。

一方、自動車はコロナで販売に急ブレーキがかかり、車載用半導体もいったん生産を落とした。夏ごろから需要が急速に回復したものの、自動車向けの半導体は生産が追いつかない状態が今も続いている。

関係者4人によると、特に不足しているのはマイコンと呼ばれるMCU(マイクロコントローラーユニット)で、ブレーキやアクセル、ステアリング、エンジンの点火と燃焼、タイヤの空気圧、雨天の感知など幅広い機能を制御する。

フォルクス・ワーゲン(VW)やゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ホンダ、ステランティスなど、自動車各社は半導体の調達が間に合わず相次ぎ生産調整に追い込まれた。その中でトヨタは2月の決算発表で、半導体不足による生産への影響は大きくないと明らかにし、業界関係者や投資家を驚かせた。トヨタは2021年3月期の販売計画を31万台積み増し、営業利益の見通しを54%引き上げた。

「我々が知る限り、今の半導体不足にうまく対応している自動車メーカーはトヨタだけだ」と、前出の関係者は言う。

<震災で教科書を書き直し>

2011年3月11日に東北から関東の広い範囲を襲った強い地震とその後の津波は、トヨタのサプライチェーン(供給網)を寸断した。仕入れ先が被災し、およそ500品目に及ぶ部品や素材の調達を早急に手当てする必要に迫られた。被害を受けた取引相手には、ルネサスエレクトロニクスの車載用半導体工場も含まれていた。

状況は1995年の阪神・淡路大震災のときより深刻で、生産が正常化するまでに国内は4カ月、海外は半年かかった。

トヨタの代名詞とも言えるジャスト・イン・タイム生産方式にとって、大きな衝撃だった。必要なものを・必要なときに・必要な量だけ作り、在庫をなるべく持たない生産管理手法によって、トヨタは効率と品質の面で業界の盟主となった。

東日本大震災後、トヨタはMCUをはじめとする半導体の調達手法を改めた。関係者4人によると、事業継続計画(BCP)の一環として、災害などが起きてもしばらく製品を納入できるだけの半導体在庫を持つよう、サプライヤーに求めた。期間は種類によって異なるものの、多くは3.5カ月から4カ月分。長いものでは6カ月分、中にはそれを超える場合もあるという。半導体を発注してから納品されるまでのリードタイムに当たる。

こと半導体に関しては、トヨタは従来の生産管理手法の「教科書」を書き直した。世界的に半導体が不足し、サプライチェーンリスクが注目される今、トヨタはその成果を本格的に示しつつある。

トヨタ関係者によると、在庫を極力絞る戦略の目的の1つは、サプライチェーン上の非効率な部分とリスクを洗い出すことだという。目詰まりしそうな部分を浮かび上がらせ、それを回避する。

「事業継続計画は、問題を顕在化させて解決していくトヨタのやり方そのものだ」と、同社広報は言う。

複数の関係者によると、トヨタは半導体在庫を積み増したサプライヤーに対し、毎年の原価低減活動で下がったコストの一部を還元している。トヨタの場合、MCUの在庫はデンソーのような部品メーカー、半導体商社、ルネサスや台湾のTSMCのような半導体メーカーが持つ。

関係者によると、様々な種類があるMCUのうち、現在供給が不足しているのは最先端のものではなく、線幅28ー40ナノメートルのより一般な半導体だという。

<技術のブラックボックス化>

トヨタが競合他社と比べ、今回の半導体不足をうまく乗り切っているのにはもう1つの理由があると、関係者は指摘する。サプライヤーから供給された部品をそのまま完成車に組み入れるのではなく、自動車に使われる技術を完全に理解しようとする姿勢だという。

「この基本的な姿勢が他社との差別化につながっている」と、トヨタの技術者の1人は言う。「半導体に不具合を起こす要因から、製造プロセスで使うガスや薬品まで、半導体の技術を知り尽くしている。技術を買ってくるだけでは得られない、違うレベルの知識だ」と、同関係者は話す。 

自動車メーカーが使う半導体とデジタル技術は21世紀に入って爆発的に増えている。ハイブリッド車や電気自動車の普及だけでなく、自動運転技術やネットワーク接続機能の搭載が進み、一段と強力な計算能力が必要となったことが背景にある。その対応として、複数の集積回路を1つの基板に載せたシステム・オン・チップ(SOC)と呼ばれる半導体が使われるようになってきた。

こうした技術は新しく、特殊なため、自動車メーカーの多くはリスク管理も半導体メーカーに任せるきらいがある。

しかし、技術のブラックボックス化を嫌うトヨタは、30年以上にわたって社内で半導体の知見を蓄えてきた。電機メーカーの技術者を受け入れ、1989年には愛知県豊田市に半導体工場を完成させ、1997年に市販化するハイブリッド車「プリウス」につながった。

トヨタは2019年、この工場をグループ会社のデンソーに引き渡し、電子部品事業をデンソーに集約した。

東日本大震災でBCPを確立したことに加え、早くから半導体の自社開発と生産に乗り出して深い知識を蓄えてきたことが、足元の半導体不足の危機を回避できている大きな要因だと、ロイターが取材した関係者は口をそろえる。

一方、このうち2人はトヨタが半導体開発をデンソーに一本化したことを懸念する。効率化と専門性を高めるという目的のために、技術のブラックボックス化を嫌がる姿勢を失うかもしれないと危惧する。

「今回の半導体不足は乗り切れたかもしれないが、この先何が待ち構えているかは誰も分からない」と、関係者の1人は言う。「開発の効率化という名のもと、技術に対する知見を失うかもしれない」

(白水徳彦 日本語記事作成:久保信博 編集:橋本浩)

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