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焦点:マスク氏、中国の「失敗」に乗じてインドネシア宇宙開発に浸透

発行済 2024-02-26 14:45
更新済 2024-02-26 14:55
© Reuters.   2020年4月、中国のロケットが発射直後に不具合を起こし、打ち上げは失敗に終わった。写真は2022年5月、米テキサスス州ボカチカのスペースX施設で会談するインドネシア

Stefanno Sulaiman Devjyot Ghoshal Joe Brock

[ジャカルタ 20日 ロイター] - 2020年4月、中国のロケットが発射直後に不具合を起こし、打ち上げは失敗に終わった。搭載されていた、インドネシアが2億2000万ドルを投じた人工衛星「ヌサンタラ2」も破壊された。国内通信網の強化に向けたインドネシアの取り組みは大打撃を受けたが、これをチャンスと考える人物がいた。

世界で最も成功しているロケット打ち上げ企業、スペースXを保有するイーロン・マスク氏だ。国営の中国長城工業総公司(CGWIC)の失敗に乗じて、インドネシア政府の衛星打ち上げ事業者選定で優位に立った。

インドネシアは東南アジア最大の経済規模を誇り、宇宙開発の点でも重要な成長市場だ。CGWICは同国への売り込みに際して、中国政府の地政学的なパワーを背景に、低利の資金供給と合わせて宇宙開発計画に対する幅広い支援を約束した。

事情に詳しいインドネシア政府高官1人とジャカルタの業界関係者2人によると、この打ち上げ失敗が転機となり、インドネシアは中国の宇宙関連企業を見限り、マスク氏が保有する企業を優先するようになったという。

「ヌサンタラ2」は、インドネシアがCGWICに託した2基目の衛星で、当時すでに2基を打ち上げていたスペースXに実績の点で肩を並べるはずだった。この失敗以降、スペースXはインドネシアの衛星を数基打ち上げた。中国企業によるその後の打ち上げはない。

ロイターの取材によれば、スペースXが中国国営企業を追い落とせた背景には、打ち上げの信頼性やロケットの繰り返し利用によるコストの低さだけでなく、マスク氏がインドネシアのジョコ大統領との間で築いた個人的な関係があった。2022年に両者がテキサスで会談した後、スペースXは衛星通信サービス「スターリンク」のインドネシアでの事業認可も獲得している。

インドネシアの電気通信セクターでは、低コストと好条件の融資を提供する中国企業が優位に立っており、スペースXの契約は西側企業によるインドネシア進出が成功した珍しい例だ。こうした成功の前には、インドネシアは、中国のテクノロジー大手華為技術(ファーウェイ)との取引を停止するよう求める米国の圧力に抵抗している。

中国国営企業からスペースXへという変化の詳細についてはこれまで報道されていなかった。ロイターでは、インドネシア・米国双方の当局者や、業界関係者、アナリストなど10数名を取材した。関係者の中には、メディア対応の権限がないとして匿名を条件に取材に応じた人もいる。

インドネシア通信情報省に属するBAKTI(電気通信・情報アクセス向上機関)で衛星インフラ部門を率いるスリ・サングラマ・アラデア氏は、「スペースXが我が国の衛星の打ち上げに失敗したことはない」と語る。

アラデア氏はさらに、20年4月の失敗により、インドネシア政府が再びCGWICに打ち上げを委託することは「難しく」なった、と述べた。

この記事のために、スペースX、CGIWIC、そして「ヌサンタラ2」プロジェクトの主要株主であるパシフィック・サテライト・ヌサンタラに質問を送ったが、回答は得られなかった。

中国外務省はロイターの質問に対し、「我が国の航空宇宙企業は、今もさまざまな形でインドネシアと宇宙分野での協力を続けている」と述べたが、詳細については触れなかった。

インドネシア大統領府の報道官は、政府は契約発注に際して、インドネシア国民のニーズを満たす効率的で優秀なテクノロジーを優先していると語った。

スペースXと中国企業との綱引きから垣間見えるのは、急速に拡大する宇宙産業の支配権を巡る、世界を舞台にした熾烈な競争だ。

米コンサルタント会社ブライステックによれば、グローバルな人工衛星市場は、製造や保守、打ち上げを含め、2022年には2810億ドル規模となり、宇宙ビジネス全体の73%を占めた。

<宇宙での競争>

ハーバード大学で軌道上物体を追跡しているジョナサン・マクドウェル教授の報告によれば、昨年世界全体で打ち上げられたロケットは223基、そのうち中国による打ち上げは過去最多となる67基だった。大多数はCGWICによるものだ。

同教授の報告では、中国の打ち上げ回数を上回るのは109基の米国だけ で、その90%がスペースXによるものだとしている。

また米中は衛星通信ネットワークの分野でも競争してる。

スペースX傘下のスターリンクは、地球周回軌道上にある約7500基の衛星のうち60%前後を保有し、衛星インターネット分野では支配的な地位にある。だが中国は昨年、スターリンクと競合する大規模ブロードバンド衛星通信網「国網(Guowang)」のための衛星の打ち上げを開始した。

米軍当局者は、中国は衛星・宇宙テクノロジーをライバル国に対するスパイ活動に利用し、軍事能力を高めたいと考えていると話す。

中国外務省はロイターへの声明で、米国側の主張は誹謗中傷であり、米国政府はそうした懸念を宇宙における影響力を拡大する口実にしていると述べた。

中国側の宇宙開発当局と異なり、米航空宇宙局は主としてスペースXなど民間企業が保有するロケットに依存しており、同社は米連邦政府から数十億ドル規模の契約を受注している。

だが、米国の宇宙政策を担当する現職とすでに退職した元当局者によれば、米国政府と米軍は、強引さが目立つマスク氏の経営手法も考慮して、スペースXに依存している状況に懸念を抱いているという。

この2人の情報提供者は、ボーイングやロッキード・マーチンといった伝統ある米国防関連企業は他国との契約を結ぶ場合は事前に国務省と協議するのが通例だったが、マスク氏とスペースXは直接インドネシア政府と交渉を行った、と指摘した。

ロッキード・マーチンの広報担当者はロイターからの問い合わせに対し、同社は「米国政府、我が国の同盟国、国際的な顧客と緊密に協力している」と述べた。ボーイングはコメントを控えるとしており、国務省はコメントの要請に回答しなかった。

国防総省の報道官は、スペースXに関する個別の質問には答えられないとしつつ、「(国防総省と)宇宙産業各社との多くのパートナーシップは、しっかりした成功の実績を築いている」と述べた。

米国の元情報機関当局者で、中国のスパイ活動に関する専門家としてシンクタンク「アトランティック・カウンシル」(ワシントン)に所属するニコラス・エフティミアデス氏は、マスク氏はこれまで米国政界の一部の反発を招いてきたと指摘する。「彼は自己流を通そうとしており、これを快く思わない当局者もいる」

とはいえ、マスク氏の成功は、インドネシアにおいて長らく苦杯をなめてきた西側企業が中国企業に対して一矢報いるものだ。インドネシアは広い範囲に延びる列島国家で、2億7000万人以上の国民が暮らし、1万7000以上の島々で構成されている。

ジョコ大統領は10月、インドネシアに対する直接投資額の点で、中国は2年以内にシンガポールを抜いて首位になろうとしている、と述べた。

ジャカルタを拠点とするシンクタンク「経済金融開発研究所」に所属するエコノミスト、アンドリー・サトリオ・ヌグロホ氏によれば、インドネシアのインターネット市場と5G通信市場は中国企業が席巻しており、2020年の失敗までは、衛星打ち上げに関しても中国と手を組むのが自然な流れだったという。

「インドネシアは多くのセクターで中国と緊密な関係を有している。中国の優位を打ち破るのは難しい」

<「スターベース」会談>

2022年5月、「ジョコウィ」の愛称で呼ばれるジョコ大統領は、テキサス州ボカチカにあるスペースXの施設を訪問した。

マスク氏はジョコ大統領に「スターベースへようこそ」と声をかけ、笑顔で握手を交わした。ジョコ大統領の狙いは、インドネシアのニッケル鉱山部門にテスラの投資を誘致することだった。

事情を直接知るインドネシア当局者によれば、ジョコ大統領は2時間この施設に滞在した。そのうち30分はロケットのミニチュア模型がずらりと並んだオフィスでマスク氏と会談し、それから製造現場を視察したという。

ジョコ大統領は、インドネシアでEV(電気自動車)産業を育てたいと以前から望んでいた。同国は、EVバッテリーに用いる重要な材料であるニッケルの埋蔵量世界一を誇る。10月には任期満了で退任するが、自身の後継者として暗に支持してきた候補が2月14日の大統領選挙で勝利したことで、今後も陰の実力者として影響力を維持するというのが専門家の見立てだ。

ジョコ大統領は昨年ロイターに対し、マスク氏を説得するため、税制上の優遇措置やニッケル鉱山の採掘免許、EV購入に対する補助金制度を提案したと述べた。同大統領はテスラのEV工場やバッテリー製造工場のインドネシア誘致という要望を公言しているが、これらはまだ具体化していない。

だが、状況を直接知る情報提供者によれば、その代わりに視察の数日後、インドネシア当局者がマスク氏の別の事業をめぐる協議を開始したという。スターリンクだ。

この情報提供者は、テキサスでの会談の際、マスク氏がジョコ大統領に、スターリンクのインドネシア参入を頼み込んだという。

国有電気通信企業テルコムのグループ企業であるテルコムサットのエンディ・フィトリ・ヘルリアント前CEOがロイターに語ったところでは、同社はスターリンク進出を支持していたという。

テルコムサットは数カ月にわたり、携帯電話のバックホール、つまり基地局と基幹ネットワークを接続する回線としてスターリンクのサービスを使えるよう、規制上の認可を求めていた、とヘルリアント前CEOは言う。

だが、当局者は認可が下りた場合に国内の電気通信事業者に生じる潜在的な影響を懸念していたため、計画はまったく前に進まなかった。それが、大統領のボカチカ訪問で変わったという。

<「ゲームチェンジャー」>

テキサスでの会談から1カ月も経たないうちに、テルコムは、グループ企業がスターリンクの地上局設置権を認められたと発表した。

インドネシア通信情報省はロイターに対し、スターリンクはテルコムサットとのバックホール事業の運営を認められただけで、インターネット接続サービスを消費者向けに提供する権利はないと述べた。

インドネシアでの議論をよく知る情報提供者は5月のボカチカでの会合に触れ、「マスク氏はあの日、あの場所でその要望を口にした。そこから話が始まった」と語る。

ジョコ大統領の報道官は、マスク氏とジョコ大統領がインドネシアにおける投資機会について協議したことを認め、現在も当局者が、テスラなどマスク氏の事業による今後の投資に関して同氏と連絡を取り合っていると述べた。

テルコムにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

昨年6月、スペースXの「ファルコン9」ロケットが、インドネシアの人工衛星「サトリア1」 を軌道上に載せた。衛星の重量は4.5トンで、東南アジア最大となる。

「サトリア1」のプロジェクトマネジャーであるニア・サトウィカ氏は、他の打ち上げ事業者と比較して、スペースXは低コストであり、打ち上げ施設を利用できる機会も多いと語る。

サトウィカ氏は「業界を一変させたゲームチェンジャーだ」と述べ、ライバルに対してコスト面での決定的な優位をもたらしているロケット部品の再利用能力を指摘した。

(翻訳:エァクレーレン)

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