[東京 17日 ロイター] - BNPパリバ証券でチーフESGストラテジストを務める中空麻奈氏は、ロイターのインタビューで、菅義偉政権が打ち出した2050年のカーボンニュートラル目標について、政府の姿勢を明確化したことは「正しい一歩だ」と評価した。ただ、官民で動きがあまりに急なため「過呼吸になっている」と指摘。官が主導してセクターごとに目標実現への具体的な工程表を示す必要があると語った。
複数の国内メディアによると、政府はガソリン車の新車販売を2030年代半ばに禁止する方向で調整している。中空氏は、唐突感のある目標だとし、「自動車会社も『過呼吸』になっていると思うし、それを見た金融機関もどこまでどういうことをすれば資金を貸し続けていいのか不明瞭になりつつある」と指摘した。その上で「官が引っ張るべきだと思うが、水素ステーションをどれだけ作る、高速道路の水素ステーションを何年までにいくつ作るなどと言ってくれないと、なかなか日本市場で水素自動車を何台出せばいいか(経営者も)わからない」との見方を示した。
<移行債の広がりに期待感>
環境分野への取り組みに資金使途を限ったグリーンボンドの発行規模が急速に拡大し、今年は1兆円を超える見通しだ。中空氏は今後も拡大は続くと予想。ESGアセットに投資したい投資家が増加しているほか、発行体側も「さすがにグリーンボンドを出さなければまずいと思いつつある」という。
中空氏は、45兆円―60兆円の日本の社債市場の20%がグリーンボンドなどESGアセットに置き換わってもおかしくないとみている。
ただ「ESGアセットに資金が流入してきて、これから先も金融緩和は続いて同じような状況が続くというのがメインシナリオと思われているが、どこかで金利が急騰するとか金利が思う以上に下がるとき、グロースよりバリュー株が魅力的な瞬間もあり得る」と述べ、ESGアセットから資金が一時的にシフトする可能性もあるとした。
市場関係者や当局者の間では、トランジションボンド(移行債)への関心が高まっている。トランジションボンドはグリーンボンドの発行要件は満たさないものの、脱炭素に移行するためのプロジェクトを資金使途とするもので、9日には国際資本市場協会(ICMA)が発行に当たってのガイドラインを公表した。
中空氏は、電力や鉄鋼、セメントなどの企業がCO2の排出量を減らしていく取り組みに資金を出すのは「ESG投資と言える」と指摘。「トランジションボンドは将来的なグリーンボンドを作るものと思っている」と述べ、ICMAのガイドラインを契機に発行が広がることに期待感を示した。
<来年の社債市場、クレジットスプレッドはタイトと予想>
チーフクレジットストラテジストも兼務する中空氏は、社債市場の来年の展望について、中央銀行によるセーフティーネットの継続、良好な需給、ファンダメンタルズが思ったより悪くなっていないことの3点を理由に、「クレジットスプレッドはタイトだろう。急速にワイド化するリスクはなくはないが、2020年とそれほど変わらないだろう」とみている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日銀は企業の資金繰りを支援するために社債の買い入れを積極化している。中空氏は「クレジットリスクのチェックに日銀の買い入れを利用するということが横行すると、日本におけるチェック機能の向上が遅れてしまう」とし、「日銀にはあまり過剰に買ってもらいたくない」と述べた。
その一方で「投資家の多くが不安で投げ売りする局面では、最後の買い手として存在してくれるのは安定感を与える」とも述べ、「金額的にはまだまだ買える」との見方を示した。
インタビューは16日に実施しました。
(和田崇彦、木原麗花 編集:田中志保)