[東京 25日 ロイター] - 政府は、安全保障に影響する恐れがある土地の取得や利用を規制する法案を26日にも閣議決定する。今国会中の成立を目指す。自衛隊や米軍の基地、原子力発電所など重要インフラ周辺の土地について、所有者の個人情報や利用目的を国が調査できるようにする。特に重要と考える施設周辺1キロ以内の土地は、売買の際に事前届け出の対象とする。
財産権を侵害する恐れから、日本はこれまで土地取引の規制には慎重だったが、中国資本が離島の土地などを取得している事例があるとして、ここ10年ほど自民党などから安全保障への影響を懸念する声が挙がっていた。今回の法案化に当たっても、経済活動や財産権を重視する公明党との協議が難航し、予定より遅れての合意となった。
「重要土地等調査法案」が対象とするのは、自衛隊や米軍、海上保安庁など国土の保全に関係する拠点の周辺、原子力発電所など重要なインフラ施設の周辺、国境付近にある離島の土地。政府が監視できるよう、所有者の氏名や国籍、利用目的などを政府が調べられるようにする。所有者の国籍は日本人、外国人を問わず調査する。必要な場合に国が所有者などに報告を求める仕組みを作る。
指令部機能を持つ自衛隊の基地など、安全保障上とりわけ重要性が高い施設周辺の土地については「特別注視区域」に指定し、一定面積以上の売買は事前届け出を求める。虚偽が明らかになった場合は「罰金」や「刑事罰」を課すこととし、実効性を確保する。
法案には「必要な最小限度」とすることを明記する。自公両党は、東京都区内の防衛省本省のような市街地については、やむをない範囲にとどめることで合意した。
<石垣島の森林購入>
これまで政府が取引や利用の実態を把握する制度はなかった。不動産登記は義務ではなく、ほかにも農地法、森林法、国土利用計画法、航空法などが土地利用の届け出を求めているが、所有者が分かってもその背後の出資者などを追うことこはほぼ不可能な状態にある。何の目的で所有利用しているのかも、突き止めることは難しい。
林野庁が2019年に公表した調査報告によると、香港資本が石垣島におよそ7000平方メートルの広い森林を購入していた。土地の利用目的は「宿泊施設」だが、その後実際にこの土地がどう利用されたのか、石垣市も沖縄県も把握していない。宿泊施設の建設に必要なはずの森林伐採の届け出もないという。
ロイターはこの土地の所有者に問い合わせようとしたが、連絡先を確認できなかった。
自民党の外交部会長を務める佐藤正久参議院議院はロイターの取材に対し、沖縄県の離島などは外国人に買われているケースが目立つと指摘。「表向きの登記簿に掲載されている以上に買われている」と話す。
西側諸国が中国への懸念を強める中で、すでに米国やオーストラリアは安全保障上重要な土地を外国人が所有することに対し、事前申告や審査、取引禁止命令などの規制をかけている。 日本では憲法による財産権の規定もあり、新たな法案でも所有を禁じることまでは踏み込まない。
兼原信克・同志社大学特別客員教授は「強く規制すると不動産市場が傷む。私権の保障とのバランスが必要」と話す。
(中川泉 金子かおり 編集:久保信博)