現在トレーダーはユーロをロングするには厳しい状況だろう。要因として、イタリアの政治危機、ドイツの景気後退の可能性、欧州中央銀行(ECB)の積極的金融緩和の見通し、そして米国からEUへの追加関税リスクなどである。
イタリアのコンテ首相は20日に辞意を表明し、ユーロ圏で3番目の経済大国イタリアに衝撃が走った。しかし、度重なるイタリアの政治危機に対してユーロへの影響は限定的である。イタリア債は政局不透明感が強まる際は売られることが多かったが、ECBの追加緩和を行う可能性を強めたためイタリア債利回りは低下した。
また、ドイツが景気後退となればユーロ圏の深刻なリスクとなるだろう。ドイツ連邦銀行(中央銀行)によると、今年第3四半期には経済が自律的景気後退となる可能性が高いという。ドイツ中銀は先週、GDP成長率は今後も徐々に低下していくことを発表している。過去4四半期では、プラス成長となったのは一度だけとなっている。
イタリアとは異なり、ドイツの景気後退はユーロ圏経済にとって大きな問題である。先週発表されたドイツとユーロ圏の8月PMIは上昇していたが、ECBによる金融緩和政策の流れは変わらないだろう。ドイツの鉱工業生産、ZEW景気期待指数は弱く、Ifo景況感指数も今後も弱いことが推測される。
またブレクジットリスクの他、トランプ大統領がEUに対し自動車に追加関税を導入する懸念も存在する。今年5月、トラン米大統領は欧州車に関税導入するかどうかを最大11月まで延期すると発言している。
これらのリスクを考慮すると、ECBは来月にも利下げや大胆な景気刺激策を実施せざるを得ないと考えられる。ユーロは引き続き売り圧力を受け、EUR/USDは1.1050以下まで下落する可能性がある。
一方で、FOMC議事要旨によればほとんどのFOMCメンバーは7月利下げに対して、中期的な調整であり、積極的な金融緩和ではないという認識で一致しているという。クリーブランド連銀のメスター総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁、カンザスシティー連銀のジョージ総裁、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は、今後の利下げに対して否定的な見方を示している。
ローゼングレン総裁は19日、米国経済は堅調であり、追加利下げの必要性について疑問を投げかけていた。デーリー総裁は、7月利下げについては賛成であるが、労働市場や消費者支出が好調であると認識しているという。また、ジョージ総裁はこのデーリー総裁の意見に賛成であり、景気後退のサインをまだ窺う必要があるとしている。ローゼングレン総裁と同様、デーリー総裁も米国経済は順調であるという見方を示しているという。ハーカー総裁は、7月の利下げは必要があったとしているが、今後の政策金利については「我々はまだ状況をしばらく見守る必要がある」としている。
トランプ米大統領は、FRBに対しさらなる予防的措置を望んでおり、今週ではより一層FRBに対して圧力をかけている。しかし、FOMCメンバーはこの考えに対して乗り気ではないようである。となれば、FF金利先物は現在9月利下げを100%としているため、市場へのサプライズとなるだろう。
現在最も注目されているのは、本日日本時間23時からのジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演である。この講演によって、今後の米ドルのトレンドは決まっていくことになるだろう。