世界中の医療専門家はオミクロン株の脅威を心配しているが、投資家はそうでない ― 少なくとも、2%の株高と米ドルの反発は投資家の強気姿勢を反映している。
オミクロン株の最初の症例が米国で現れるのは時間の問題であることは誰もが承知していた。しかし、初期のコロナウイルスと今年みつかった3つの変異株(イオタ、アルファ、デルタ)の脅威を経験した投資家は、オミクロン株が世界の経済回復を妨げるものになるとは考えていない。より多くの国が外出規制を設ければ、個人消費や経済成長が鈍化することは間違いない。しかし、ワクチンの接種率は高く、米国政府は都市封鎖にはあまり乗り気ではない。オミクロン株がどれほどの驚異になるのか(あるいはならないのか)を知るには、何週間もかかる可能性がある。そして危険性が明らかになるまでは、米国市場が堅調であること、連邦準備制度理事会(FRB)がインフレに対して懸念を有しており、それへの対応して資産購入プログラムの縮小ペースを早める準備ができていることなど、現時点で確実なことに投資家は注目するだろう。
金曜日は、11月の雇用統計の発表が予定されているが、これまでに発表されたその他の経済指標などはいずれも、今回の雇用統計が良好な結果になることを示唆している。先週発表された新規失業保険申請件数の増加は市場予想を下回っただけでなく、4週間の移動平均値も2020年3月以来の低水準となった。継続申請件数もパンデミック後初めて200万件を下回った。解雇者数は28年ぶりの低水準で、雇用者は労働者の確保に苦慮している。エコノミストは、非農業部門の雇用者数が531,000人から550,000人程度増加すると予想している。そして、雇用の伸びが予想と同じかそれ以上になれば、米ドルは上昇するだろう。労働市場の逼迫は、賃金増をもたらし、最終的にインフレを煽る可能性がある。これが、FRBがインフレを懸念する主な理由のひとつとなっている。オミクロン株が需要を緩和したともいえるが、過去にデルタ株はサプライ・チェーンの問題を改善するどころか悪化させたという前歴を忘れてはいけない。
また良好な雇用統計は、米連邦準備制度理事会(FRB)が12月14~15日の政策決定会合でテーパリング(量的緩和の縮小)のペースを加速させる計画を補強するものとなりうる。今週、パウエル議長とイエレン財務長官の両者が、そろそろtransitory(一過性の)という言葉をインフレ状況の説明に使うのをやめるべきだと発言したことで、インフレ予測が引き上げられる可能性が高い。また政策担当者が早期の利上げを支持していることが、ドット・プロットによって示されるはずである。これらはすべて、米ドルにとってポジティブな材料である。ニュージーランド準備銀行のようなタカ派の中央銀行は、オミクロン株が経済見通しを変えるような驚異になるとは考えていない。
もし私たちの認識が間違っていて、オミクロン株が他の変異株と比べて致死性が高いことが証明された場合、諸外国は米国よりも早くロックダウンを実施するだろう。そのような展開となれば、ロックダウン実施国の通貨は弱含むことになるだろう。オミクロン株のニュースを受けて米ドルは大きく売られたが、他の通貨も軟調に推移しており、一部は数ヶ月ぶりの安値に向かっている。
またカナダでも金曜日に雇用統計が発表される。米国と同様、雇用の伸びは改善すると予想されるが、その程度は緩やかなものに留まるだろう。USD/CADは、米ドルへの需要を背景に、木曜日に2ヶ月ぶりの高値にまで上昇した。最近の原油価格の下落もカナダ・ドルにとって重しとなっている。
米ドルに次いで、木曜日のパフォーマンスが最も良かった通貨は英ポンドで、最も悪かったのはユーロおよびオーストラリア・ドルだった。ユーロ圏の経済指標は予想を上回り、10月の生産者物価は大幅に上昇し、失業率も低下した。しかし残念なことにオミクロン株は欧州で猛威を振るっており、欧州諸国は厳しい外出規制で対応する可能性が非常に高い。オーストラリアでは貿易統計の弱さと住宅ローン件数の予想外の減少により、豪ドルはすべての主要通貨に対して下落した。一方、ニュージーランド・ドルは、ニュ―ジーランド準備銀行がオミクロン株が経済見通しを変える可能性はないと述べた後、堅調に推移した。