[上海 22日 ロイター] - 中国は今年、脱炭素に向けて再生可能エネルギーによる発電能力を過去最大規模で増やす狙いだ。ただ、ウクライナ危機を背景とするエネルギー安全保障上の懸念から、石炭使用量を前倒しで減らす可能性は小さくなっており、ピーク時の炭素排出量が計画より大きくなる恐れもある。
習近平国家主席は昨年、石炭使用を「厳しく抑制」すると約束。2026年からは使用量を減らし始め、二酸化炭素(CO2)排出量が2030年より前にピークを迎えるようにすると表明した。中国のCO2排出量は世界最大。
これらの目標が変更される可能性は小さいものの、環境団体はCO2排出量のピークが計画よりずっと高くなるのではないかと恐れている。エネルギー安全保障上の懸念が強まっているためだ。
中国のエネルギー当局者らはこのところ、ウクライナ危機による石油と天然ガス供給のひっ迫を受けて欧州が「石炭に回帰」していると指摘。対照的に、中国のクリーンエネルギー移行政策は揺るがないと強調している。国営メディアは、気候変動対策における欧州の「偽善」を攻撃する。
国家能源局の章建華局長は先月「昨年世界のエネルギー供給が引き締まったことで、欧州の多くの国々が石炭火力発電を再開しているが、わが国の非化石燃料エネルギー開発はしっかりと継続している」と胸を張った。
ドイツは今月、休止していた石炭火力発電所を再稼働。ロシアからの天然ガス供給が細る中でも発電所の稼働を持続できるよう、石炭輸入を増やす見通しだ。
中国は、あと3年は石炭の使用量を増やす予定。中国電力企業連合会が今年公表した予想では、2021─25年には発電能力拡大の半分を再生可能エネルギーが占める見通しだが、そうした中でも化石燃料発電は250ギガワット(GW)余り増えると推計される。
中国はまた、昨年から石炭生産を年間4億9000万トン増やしている。これはドイツとロシア両国の需要を満たせる量だ。今月この数字を示した石炭鉱山安全当局は、石炭は「依然としてわが国の最も重要な電源だ」と説明した。
中国は厳しい熱波に見舞われ、電力網に重い負荷がかかっている。
中国は石炭火力発電所の新規開発を続けており、昨年の建設規模は2016年以来で最高だった。浙江省では今月、新規発電所の第2期の建設が始まったところだ。
<中国VS欧州>
欧州はこれまで先頭に立って中国に化石燃料削減の積極化を迫ってきたが、英グラスゴーで昨年開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、中国に石炭利用の「段階的廃止」を飲ませることができず、成果文書の表現が「段階的削減」に修正された。
ペロシ米下院議長による台湾訪問を受け、中国は米国との気候変動協議も中止した。
非営利組織エンバーのエネルギー・気候変動シニアアナリスト、サラ・ブラウン氏は、欧州諸国の石炭回帰が一時的にとどまらず恒久化するようなら、気候変動に関する外交的立場は弱まると指摘。「必要とされるスピードで再生可能エネルギーの導入を進めていない証拠が出てくれば(中略)、その時こそ疑問を突きつけられるだろう」と語った。
国家能源局の章建華局長は記者団に対し、中国の全エネルギー消費量に占める非化石燃料の割合は2030年までに1ポイント高まるとの見通しを示した。風力・太陽光の発電能力を2030年までに1200GWと、昨年の約2倍に拡大する意向も明らかにした。
オーストラリア国立大学で中国のエネルギー政策を研究しているジョリット・ゴセンス氏は、中国がエネルギー安全保障上の懸念から脱炭素計画を後退させるかどうかについては、相反するさまざまなシグナルが出ていると話す。
例えば、今年上半期の中国の石炭生産は11%増加したが、使用量が増える兆しは見当たらない。生産増加分の大半は、輸入減少によって相殺される見通しだ。
環境保護団体グリーンピース(北京)のシニア気候アドバイザー、リー・シュオ氏は「エネルギー危機と欧州における『石炭への回帰』を見て、中国の一部の人々は『いい気味だ』と思っている」と言う。
シュオ氏は、「欧州の状況を受けて中国で石炭使用量が増えているわけではないにせよ、中国政府が以前から抱いていた、エネルギー安全保障を全力で確保したいという願望が強化されているのは間違いない」と解説した。
(David Stanway記者)