Fabio Teixeira
[ピレスドリオ(ブラジル) 4日 トムソン・ロイター財団] - ブラジル中部ゴイアス州で農業を営むリカルド・サンティノニさん(49)が20年前に最初に大豆を栽培したときには、70ヘクタールに作付けするのがやっとだった。それが今や作付面積は1000ヘクタールに拡大。しかも、木を一本も切ることなく成し遂げた。
サンティノニさんが父親から譲り受けた土地は、かつては広大なセラード(ブラジル内陸中央部に広がる熱帯サバンナ地帯)の一部だった。数十年前に開墾されたが、その後、生産性が落ちたため放棄され、荒廃した牧草地となっていた。
サンティノニさんは農学者のフェルナンダ・フェレイラ氏と協力し、トウモロコシや豆類などを輪作し、牛を放牧してたい肥をまいて土壌を豊かにし、何年もかけてこの荒廃した牧草地を徐々に肥沃な土地に戻してきた。
農場の事務所でトムソン・ロイター財団のインタビューに応じたサンティノニさんは「私自身は巨大な全体の小さな一部分だと思っている」と話した。指差した先には「持続可能な方法で生命を養おう」というスローガンが掲げられていた。
大豆生産は森林破壊と密接に結びついており、「持続可能性」という言葉とほぼ無縁だった。しかし、サンティノニさんによると、土地を新たに開墾するのではなく、やせ細った土地の再生に取り組む農家が増えている。
ゴイアス州は国内第3位の大豆生産州。5月から9月の乾期は主要作物である大豆の収穫後の時期にあたり、農地では枯れた茎が乾燥した土壌に散乱し、あたり一面が黄色と茶色に覆われる。
だが、サンティノニさんの農場は、8月になっても雨が降っていないというのに、豆や牧草が青々としている。
「この土地で実践していることにより、私は地球の持続可能性に大きく貢献している」と、サンティノニさんは胸を張った。
<食料需要と自然保護>
米農務省によると、ブラジルは近年、米国を抜いて世界最大の大豆生産国となり、今年の収穫量は1億5500万トンと過去最高を記録する見込み。大豆の作付面積は4500万ヘクタールとスウェーデンの国土に匹敵する。
さらにブラジル政府の推定によると、大豆など食用作物の生産再開が可能な荒廃した牧草地が約1億ヘクタールもある。
ブラジルは数十年も前から土地の再生に取り組んできたが、各国政府が地球温暖化対策を進める中で、農地開墾に代わる手法として改めて注目を集めている。
ブラジル政府は今年7月、再生のための基金設立計画を発表した。8月の地元経済紙の報道によると、投資家から約1200億ドルを集め、今後10年間で4000万ヘクタールの再生を目指すという。
<森林破壊に歯止め>
フェレイラ氏によると、サンティノニさんの農場は化学肥料の使用を減らしているにもかかわらず、大豆の収穫量が着実に増えている。1ヘクタール当たりの収穫量は2004年には平均49袋(1袋=60キロ)だったが、今では75袋に増加。26年までに100袋にすることを目指している。土地管理技術の中心は輪作で、牛の放牧のために牧草も植えているという。
非営利団体クライメット・ポリシー・イニシアティブ(CPI)の政策評価責任者、プリシラ・ソウザ氏は、これ以上の森林破壊を避けるためには、土地の再生と生産性の向上が不可欠だと指摘する。
ブラジルの森林を保護する手立てとして土地再生は期待を集めているが、特に資金や専門知識を持たないことが多い小規模農家に対しては、政府の支援が必要だという。
<農業文化に変化も>
政府の直接的な支援措置がなくても、ブラジルでは農地再生が経済的に理にかなっている場合が数多くあり、投資会社がそうしたチャンスを探し始めている。
エンブラパのアナリスト、ペドロ・エンリケ・デ・アルカンタラ氏は「農家にとって(合法的に伐採された)土地を新規開拓するよりも荒廃した土地を再生する方がずっと安上がりだ」と話す。
ブラジルの金融サービス会社パラミス・キャピタルは、荒廃した土地を買い取って再生する5億レアル(1億0060万ドル)のファンドの組成を進めている。
サンティノニさんにとって、森林破壊に対する国際的な圧力が高まる中、自分の農場をより持続可能なものへとシフトすることは大きな転機であり、農家新世代の考え方の変化を映している。
大豆の収穫量が減れば生産者は競争力を失い「市場から弾き出される」のだから、この転機には農家の生き残りもかかっているという。