[東京 29日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は29日、金融政策決定会合後の会見で、新型コロナウイルス対応として実施中の特別プログラムは効果を発揮しているとしたうえで、2021年3月末までとしている措置について「必要と判断すれば期限を延長する」と述べた。
黒田総裁は具体的なタイミングは明言せず、措置延長について今後の情勢を見て判断するとした。新型コロナオペについて、金融機関の経営支援との指摘が出ている付利を修正した上で延長する可能性については「今の時点で具体的に中身の変更ということを考えているわけではない」と語った。
<コロナ対応の期限延長、今回は見送り>
日銀は29日までの決定会合で金融政策の現状維持を決定、21年3月末に期限となる新型コロナオペなどの期限延長は見送った。ただ、日銀内では、企業の資金繰りを引き続き支え、倒産を防いでいく必要があるとの見方から、延長すべきとの声が多い。
SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは、次回12月の決定会合で半年間の延長が決まると予想している。年末で資金需要が強まりやすいことに加え、政府の20年度第3次補正予算の閣議決定とタイミングが重なりそうなことがその理由だ。
コロナオペを巡っては、金融機関へのプラス0.1%の付利が「金融機関の経営支援という側面がある」(エコノミスト)との指摘が出ている。中間決算の発表を前に、与信関連費用が当初想定を下回ったとして業績予想を引き上げる地方銀行が続出している。
期限延長に合わせて制度を修正する可能性について、黒田総裁は「そうしたことも含めて今後検討されることになると思う」と述べた。
<遠い物価目標、今はコロナ対応に集中>
日銀がこの日発表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、20年度の実質国内総生産(GDP)の政策委員見通しの中央値が前年度比マイナス5.5%と前回7月の同マイナス4.7%を下回った。サービス需要の回復の遅れが主因だ。ただ、景気の現状判断は「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が再開するもとで、持ち直している」とし、9月の決定会合での「持ち直しつつある」との評価から一歩前進した。
消費者物価(除く生鮮、コアCPI)の前年比は、感染症や原油価格下落、政府のGoToトラベル事業の影響などを受け、当面マイナスで推移する見通しが示された。
菅義偉首相が看板政策に掲げる携帯電話料金の値下げが実現すれば、さらに物価に下方圧力が掛かり得る。黒田総裁は「特定部門における一時的な価格変動要因」とし、全体的な物価の趨勢を規定するものではないとの認識を示した。
政策委員の見通し中央値では、コアCPIは22年度もプラス2%に届かない。黒田総裁は、日銀が掲げる2%の物価安定目標に向けたモメンタムが失われたのは確かだが、目標は適切であり変更する必要はないと述べた。
黒田総裁は「現時点ではコロナウイルス感染症への対応が何よりも重要だ」と強調。一連の施策を通じて経済活動をサポートし、今後の2%の物価安定目標に向けた道筋にしていきたいとの考えを示した。
<分断する景況感>
コロナの影響が長引く中で、業種や規模により景況感の格差が鮮明になっている。好調な中国景気などに支えられ、輸出は堅調な回復となっており、日銀はこの日の展望リポートでも、生産と輸出の判断を上方修正した。日銀内でも、輸出回復が持続することへの期待感が出ている。
一方、飲食・宿泊・対面サービスや鉄道・航空の景況感は厳しい。Gotoトラベルで国内旅行客が戻ってきているとは言え、日銀内では新型コロナによる慎重な行動様式の広がりなどで、消費の自律的な回復は難しいのではないかとの見方が出ている。
規模による景況感の違いも出ている。日銀短観で非製造業の先行きのDIを見ると、大企業では足元のDIから1ポイントながら上昇したのに対し、中堅企業や中小企業では足元のDIから低下した。
<政府と日銀の役割分担>
日銀内では、企業業績が業種ごとに異なってきている現状について、特定の業種への支援は財政の役割だとの見方が多い。日銀はあくまで金融機関を通じ、民間部門の資金繰り支援に徹し、企業倒産を防ぐのが重要だとの声が出ている。
黒田総裁は「感染拡大防止と経済活動の両立を図る中で、企業業績についても最悪の状況が回避できればいいと思う」と指摘。「引き続き(コロナ対応の)3本柱をしっかりやって、さらに必要があればそれぞれの要素について緩和措置を拡大することが十分可能だ」と述べた。
SMBC日興証券の牧野氏は「景気のためには財政しかない。日銀はできることは全てやっている」と指摘。当面は政府が「ヘリコプターマネー政策」を取って需要を喚起し、日銀がバックファイナンスするのが望ましいとする。
(和田崇彦、杉山健太郎 編集:石田仁志)