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焦点:異例の五輪が閉幕へ、メダル最多の日本 「バブル」外で感染急増

発行済 2021-08-08 08:38
更新済 2021-08-08 08:45
© Reuters.  8月8日、  異例の無観客開催となった東京五輪は、猛暑の中で行われた17日間の熱戦が閉幕する。写真は国立競技場に灯された聖火。7月23日撮影(2021年 ロイター/Kai Pfaffenbac

久保信博

[東京 8日 ロイター] - 異例の無観客開催となった東京五輪は8日、猛暑の中で行われた17日間の熱戦が閉幕する。開催国の日本に過去最多のメダルをもたらす一方、国内の新型コロナウイルス感染者数も過去最多を更新し続けた。1年の延期で選手が難しい調整を迫られる中、心の健康、さらには多様性、圧政といった社会的、政治的な問題に焦点を当てる大会にもなった。

<「2つの世界」>

世界のアスリートが戦いを繰り広げ、日本が過去最多56個のメダル(8月7日時点)を取る中、大会期間中のコロナ感染は専門家の警鐘どおり東京を中心に急拡大した。7月1日に1741人だった全国の1日の感染者は開幕前日の22日に5000人を突破、29日には1万人を超えた。開会式から8月6日までに計14万4012人の新規感染者が確認され、コロナ禍が始まってからの累計は100万人の大台に乗せた。

一方、外界と切り離された五輪の「バブル」内は感染が抑制された。当初は事前合宿で来日した選手団の間で陽性者が出るなどバブル内の感染が懸念されたが、陽性が確認された大会関係者は8月7日時点で計404人。国際オリンピック委員会(IOC)によると陽性率は0.02%(7月末時点)で、東京都の22.3%(8月6日時点)とは対照的だ。

今大会では新種目のスケートボードなどで若い選手が大活躍したが、最近のコロナ感染は10代や20代の若者の間で広がっている。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長はデルタ株の影響だけではないとし、「オリンピックをやることが人々の意識に与えた影響はあるのではないか」との考えを示している。

救急医として東京五輪の会場に派遣された医師の横堀将司さんは、ロイターの取材に「今、2つの異なる世界にいる」と語った。横堀さんが勤務する日本医科大学付属病院の高度救命救急センターは感染第5波の最前線に立ち、重症病床が満杯の状態にある。横堀さんはバブルの内と外を「天国と地獄のよう」と表現した。

<心の健康や多様性も焦点に>

多様性をテーマとして掲げた東京五輪には、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなど性的少数者(LGBTQ)を公表して参加する選手が過去最多の160人を超えた。

特に関心を集めたのが、トランスジェンダーの選手として初めて、生まれた性別とは別のカテゴリーで五輪に参加したローレル・ハバード(ニュージーランド)だ。

IOCは、一定の基準を満たせばハバードのような選手が女子競技で戦うことを認めている。一方で、元選手や女性の権利を提唱する人たちの間には、元男性だったハバードは身体的に有利で不公平との声もあり、意見を2分する争点となった。

ハバードはわずか10分で途中棄権となったが、「歴史的な出来事とされるべきでない」とし、「私たちが新しい、より理解の深まった世界に移っていくにつれ、私のような人たちもただの人間であるということを、皆理解し始めると思う」と話した。

政治的な問題も大会期間中に浮上した。ベラルーシ陸上女子のクリスチナ・チマノウスカヤが、コーチらに強制帰国させられそうになる事件が発生。チマノウスカヤはコーチらをソーシャルメディア上で批判した後に東京の羽田空港に連れて行かれたと主張し、亡命を求めた。ポーランドが彼女に人道的査証を発行した。

ベラルーシはルカシェンコ大統領が1994年から同国を厳しく支配。昨年夏の選挙で勝利後、不正があったとする市民が大規模な抗議デモを行ったが、これを暴力で弾圧した。選手が政府からの支援に依存する国としては珍しく、ベラルーシではアスリートも抗議に参加、複数が投獄されたり、代表チームから外されている。

<選手は楽しめているか>

女子体操の米国代表シモーン・バイルスが欠場したことにも、世界の目が注がれた。リオ五輪4冠のバイルスは、全米の期待を背負って来日したが、精神的な理由で団体総合決勝を途中棄権した。「あまり楽しめていない気がする」──。

米体操連盟やIOCは彼女の決断を支持。バイルスはその後調整を重ね、最終種目の個人平均台で復帰し銅メダルを獲得した。

「メンタルヘルスの問題に光を当てることは私にとって大きな意味がある。結局のところ私たちは人間であって、単に人を楽しませるモノではないということを人々は理解すべきだ」とバイルスは訴えた。

今大会では猛暑も問題となった。試合中に体調を崩す選手が続出。テニス男子シングルスに出場したダニル・メドベージェフ(ロシア・オリンピック委員会=ROC)は試合中、「死んだら誰が責任を取るんだ」と審判に訴えた。

アスリートに最高のパフォーマンスを披露してもらうための場をいかに提供するか、公平な多様性をどう図るのか。政治の介入を防げるか、そしてコロナをどう克服するか、様々な課題が24年のパリ大会に引き継がれる。

(久保信博 編集:伊賀大記)

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