[28日 ロイター] - 新型コロナウイルス感染症治療の飲み薬(経口薬)開発レースで、現在のところ優位に立っているのは、米製薬大手のメルクとファイザーだ。両社はそれぞれ新薬候補の臨床試験(治験)結果を公表する準備に入った。
一方、出遅れたライバルたちは、より効果が大きく患者にとって負担が軽い飲み薬を生み出すことで一発逆転を狙っている。
これら後発組のエナンタ・ファーマシューティカルズ、パーデス・バイオサイエンシズ、塩野義製薬、ノバルティスらによると、彼らが開発しているのは新型コロナウイルスを狙い撃ちする抗ウイルス薬。服用回数を減らしたり、既に知られている安全面の問題を回避したりできる方法を探っているという。
感染症の専門家は、パンデミックを制御する上で最善の手段は、引き続きワクチンの幅広い普及を通じた新型コロナウイルス感染症の予防だと強調する。しかし、感染症はなくならない以上、今あるものより使い勝手の良い治療法が求められているとも指摘する。
カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のロバート・スクーリー教授(感染症)は「新型コロナウイルスを抑え込むには、経口薬が必要だ。ワクチンを接種せずに感染する人、ワクチンの免疫機能が衰えつつある人、ワクチン接種を受けられない人がいるからだ」と述べた。
こうした中で、ファイザーやメルク、ロシュとアテア・ファーマシューティカルズの連合は、いずれも年内に新型コロナウイルスの経口治療薬の緊急使用を申請する可能性があると表明している。
開発スピードの面で他の製薬会社は、少なくとも1年は遅れている。パーデスは先月、初期の治験を開始。塩野義は年末までに大規模治験を始める予定で、エナンタは来年早々治験に移行、ノバルティスはまだ動物試験の段階にとどまっている。
先頭ランナーの一角であるメルクの場合、リッジバック・バイオセラピューティクスと共同開発している治験薬「モルヌピラビル」は、ある時点までインフルエンザ治療薬として想定されていたが、「転用」した形だ。
これに関してエナンタのルリー最高経営責任者(CEO)は、当初別の感染症のために開発された薬を新型コロナウイルス治療に用いるのは一定の妥当性があるとしつつも、どこまで効果があるか、あるいはウイルスが浸透している肺組織をどの程度までピンポイントで標的にできるかは、分からない面があるとの見方を示した。
ルリー氏は「それほど効果がない場合、結局、時間のむだになる」恐れがあると警告する。
実際、抗ウイルス薬の開発は難しい。なぜなら既に人体の細胞内で複製されたウイルスを対象に、健康な細胞に痛手を与えずに攻撃しなければならないからだ。最も効果を発揮するには、早期投与が不可欠という条件もある。
現在は入院を必要としない新型コロナウイルス感染者向けに承認されている治療法は、点滴や注射による抗体薬の投与に限られている。
ジェフリーズが最近試算したところでは、有効で便利な新型コロナウイルスの治療手段が登場すれば、年間売上高は100億ドルを超える可能性がある。メルクは米政府との間で、モルヌピラビルによる治療料金を1回700ドルにする形の契約を結んでいる。
<負担軽減を模索>
これまで幾つかの種類の抗ウイルス薬が開発されている。例えば、当初はC型肝炎向けだったアテアの「ポリメラーゼ阻害剤」は、新型コロナウイルスの自己複製能力を破壊する。ファイザーの治験薬のような「プロテアーゼ阻害剤」は、ウイルス増殖初期段階で複製に必要な酵素との結びつきを防ぐ働きがある。
パーデスもプロテアーゼ阻害剤を開発中。ロパティンCEOは「ウイルスが複製工場を立ち上げる」過程を止めることを狙っていると説明した。
メルクのモルヌピラビルは、ウイルスのRNAにエラーを引き起こして増殖を防ぐ。
このモルヌピラビルとファイザーの治験薬は5日間、12時間ごとに服用しなければならない。また、ファイザーの治験薬は、エイズ感染症に使われる既存の抗ウイルス薬「リトナビル」の併用が必須。この「ブースター」によってプロテアーゼ阻害剤の効果が高まる半面、消化器系の副反応が生じ、他の薬の効き目を妨害する可能性がある。
スクーリー教授は「望ましい効果がある薬を摂取するために、いらない薬まで飲まなければならないような感じだ」と説明した。
これに対してエナンタは昨年、手持ちの抗ウイルス薬を総点検した後、新型コロナウイルスの従来株や変異株の複製に不可欠な酵素だけを標的とした新たなプロテアーゼ阻害剤を開発する道を選んだ。ルリーCEOは、リトナビルと併用せず、1日1回の服用という形で治験を行うと述べた。
パーデスのロパティンCEOも、同社の治験薬について服用を1日1回か2回にして、リトナビルの併用が必要かどうか評価していると明らかにした上で「ブースターを使わなければならないとは想定していない」と語った。
(Deena Beasley記者)