Medha Singh Lisa Pauline Mattackal
[3日 ロイター] - 「ビットコインはもう時代遅れだ」――。ブロックチェーン技術が伝統的な現実資産(RWA)に新たな世界をもたらすことに賭けている暗号資産(仮想通貨)投資家の間からは、こうした声が聞かれる。
暗号資産価格が次の急落を前に揺れ動く中、ブロックチェーン技術に基づいて債券や株式、不動産などをデジタルトークンとして表示する「トークン化有価証券」市場がついに、クリティカルマス(普及率が一気に跳ね上がる分岐点)に達しようとしているかもしれない。
ロンドン証券取引所グループ(LSEG)やウィズダムツリー、ミラエ・アセット・セキュリティーズなどの大手金融機関は過去1年間で、トークン化証券の取引や投資を手がけるプラットフォームに出資するか、それらを育成する協議を進めている。
フランクリン・テンプルトン、UBSアセット・マネジメント、ABNアムロなどは、すでにマネー・マーケット・ファンド(MMF)や環境債(グリーンボンド)といった資産のトークン化証券の販売を開始した。
今年5月にEY―パルテノンが300を超える市場参加者を対象に行った2つの調査によると、米国の機関投資家の3分の1余りと、富裕投資家のほぼ3分の2は年内か来年にトークン化証券への投資を計画している。
ブロックチェーン企業ポリゴン・ラブズのグローバル機関投資家資本責任者のコリン・バルター氏は、膨大な取引コストを節約できる可能性が、大手機関投資家にとってのトークン化証券の魅力だと説明する。
バルター氏は「市場シェアと利益を巡る競争はし烈なので、このようなコスト圧縮につながるアイデアの影響力は絶大だ」と指摘。機関投資家は何年もかけてトークン化の調査を実施しており、今は各プロジェクトを始動させることにより大きな安心感を持っていると付け加えた。
トークン化推進派は、伝統的な金融分野に透明性の高い取引を提供し、流動性を高め、コストと決済時間を圧縮できると主張する。それを可能にするのが、ブロックチェーン技術を基盤とする契約手続きの自動化、つまり「スマートコントラクト」だ。
一方で、トークン化には取引インフラの不十分さや、強制力を伴う国際的な規制体系の欠如、現状では参加者が限られることなどの問題点があるとも指摘される。実際、トークン化証券の発行規模と時価総額は小さい。
<ネットワーク効果>
デューン・アナリティクスのデータからは、トークン化証券の合計時価総額が3億4500万ドルと、1兆ドルに上る暗号資産市場全体のごくわずかを占めるに過ぎないことが分かる。過去30日間の時価総額の伸びも2.3%と、ビットコインの約10%に大きく差を付けられた。
ただ、より大きな将来性に期待する向きもある。ノーザン・トラストとHSBCが今年公表したリポートには、2030年までに全ての資産の5―10%がデジタル化されるとの予想が記されている。
トークン化の考えはビットコインと同じぐらい前から存在したものの、その熱狂ぶりに市場の整備が追いついてこなかった。それでも足元で大きな進展があった、と一部の市場参加者は評価する。
アバ・ラブズの機関投資家・資本市場責任者、モーガン・クルペツキー氏は、大手機関から相当な買いが見られるので、従来とは様相が異なっていると思うと話す。
デジタル・アセット・リサーチのダグ・シュウェンク最高経営責任者(CEO)は「この先人々は、より多くの機関が同じプラットフォームを採用して各種資産がより取引しやすくなる『ネットワーク効果』が高まると期待している」と述べた。