■プライムウェーハ事業の現状と見通し3. 今後の新工場建設計画RS Technologies (T:3445)は2017年12月にGRITEKの連結子会社化計画を発表した際、GRITEKの生産能力増強計画をも同時に発表し、河北省唐山市において新規設備投資を行う計画を公表した。
その後、新規設備投資計画の詳細を検討した結果、山東省徳州市に新会社を設立し、新工場を建設することを2018年8月に正式に決定した。
立地を当初の河北省唐山市から山東省徳州市に変更した理由として、同社は1)顧客への製品輸送の利点、2)インフラコストの低さ、3)人材獲得での優位性、4)土地の拡張性、5)山東省の優遇策を挙げている。
弊社ではこれらに加えて、河北省のケースでは既存の建屋に同社が設備を導入する計画だったのに対し、山東省のケースでは建屋もゼロから建設する計画である点の利点も大きいと考えている。
製造ラインの設計で自由度が高まり、より効率性の高い工場の実現が期待できるためだ。
山東省における事業計画は、GRITEKと徳州市が出資して新会社・山東有研半導体材料有限公司(以下、山東有研)を設立し、この新会社が事業主体となって進められる。
出資比率はGRITEKが80%、徳州市が20%で、同社の方永義社長が薫事長に就任し、総経理はGRITEKの総経理が兼任する。
山東有研は資本金が15億人民元(約240億円)で、同社グループは80%の12億人民元を出資する。
このうち5億元(約80億円)はBGRSが現金で出資し、残りの7億人民元のうち一部はGRITEKの現物出資となる(後述のように、GRITEKは生産設備を新工場に移設し、徳州市の新工場の1工場体制とする)。
一方、徳州市は3億人民元を現金で出資する。
同社グループの現金出資額は約80億円で、同社が2018年3月に実施した資金調達額で十分賄えるほか、投資額の総額も当初の河北省プランで想定した94億円とほぼ変わっていない。
新工場の建設予定地は約200,000平方メートルの広さがある(前述したように状況に応じて500,000平方メートルまで拡張が可能)。
山東有研はここで2020年前半の建屋完成を目指して工事を進めている状況だ。
その後生産設備が導入され、工場稼働は2020年末頃と計画されているもようだ。
生産能力については、GRITEKが現在北京工場に有する前工程(インゴット生産能力月間17トン)と後工程(ウェーハ生産能力8インチ換算で月間20万枚)の設備が移設されるのに加え、8インチウェーハの生産設備において月間15万枚(それに相当する前工程も含む)分が新たに増設される計画だ。
この月間15万枚の増設計画はその先の増設計画と区別して第1期増設計画と位置付けられている。
同社は中国国内のシリコンウェーハ需要の急拡大に合わせて、2021年以降に第2期の能力増強(15万枚/月)も視野に入れている。
これが実現されれば8インチウェーハの月産能力は35万枚となり、現状の7倍となる。
ただし、この第2期増設プランについては、具体的なスケジュールや立地、資金手当てなど、具体的に決定していることはまだない。
また、この時点では300mmウェーハへの進出も検討課題になってくると想像され、その点でもいろいろと流動的な要素が多い。
当面は第1期増設計画の推移に注目したい。
最終的な業績の規模は従来計画と大きくは変わらないが、タイミングが1年ほど後ろ倒しとなる可能性4. プライムウェーハ事業の業績計画プライムウェーハ事業の業績計画については、2017年12月の参入計画発表時に、6年後(2023年12月期)までの長期業績見通しが公表されている。
そこでは、2023年12月期におけるプライムウェーハ事業の業績として、売上高23,390百万円、営業利益5,690百万円という数値が掲げられている。
今回、山東有研が事業主体となって事業が進められることになったが、生産能力等の点では当初の計画から大きくは変わっていないため、長期的な業績計画もこの見通しから大きくは変わっていないと弊社では推定している。
ただし、時期が1年ほど先送りになる可能性がある点は注意が必要だ。
当初の河北省プランでは建屋が既に存在しており、2019年に北京工場の設備の移設と新増設を行う計画であり、上述の業績計画はこれを前提としている。
しかし今回決定した山東省プランでは2019年は建屋の建設に充てられ、北京からの移設が2020年後半、新増設分の稼働は2020年末頃になる見通しで、河北省プランから1年遅れる形となるとみられる。
中国市場の発展性とGRITEKの高い技術力とがあいまってプライムウェーハ事業の成功の可能性は高いとみる5. プライムウェーハ事業についての考え方と今後の注目ポイント同社のプライムウェーハ事業への進出について、弊社では成功する可能性は十分にあると評価している。
2018年12月期におけるGRITEKの収益状況を見てその確信度が高まった。
新工場の立地が山東省に変更されたことも、タイミングが1年後ずれする形となるが長期的にはポジティブに働くと考えている。
弊社はウェーハの再生加工事業とプライムウェーハ事業の技術面でのハードルの高さの違いから、当初は同社のプライムウェーハ事業に警戒心を抱いていた。
しかし、同社がパートナーに選んだGRINM及びその子会社のGRITEKはシリコンインゴットの引き上げも含めて、非常に高い技術力を有していることが足元(2018年12月期第3四半期まで)の業績動向から確認することができた。
これには、同社自身がプライムウェーハ事業進出の準備をはるか以前から進めていたことも貢献しているとみられる。
詳細は明らかにされていないが、同社は日本国内で豊富な経験を積んだ技術者を複数採用し、中国に派遣して中国でのプライムウェーハ事業の検討・準備を進めてきた。
これら技術者が中国市場やパートナー企業の動向を見極め、GRINM/GRITEKという最適なパートナーの選定とその後の安定操業で大きな役割を果たしたものと考えられる。
販売面での事業リスクについては弊社ではあまり懸念していない。
最大の理由は、中国政府の後押しだ。
半導体の国産化率引き上げ策の一環で、内資企業にはウェーハ価格の20%~30%相当の補助金が交付される。
これは、GRITEK製品の価格競争力がそれだけ高まることを意味する。
またGRITEKは現時点でも充実した顧客基盤を有している。
現状は約30社を顧客として抱えており、中でも中国の半導体メーカーとの結びつきは相当に強いもようだ。
前述のように、中国でのウェーハ需要拡大見通しとあいまって、生産が順調に進展すれば販売面でのリスクは小さいと考えている。
今後の注目点は、言うまでもなく山東有研での第1期増設分の立ち上げだ。
工場建屋の建設も行うため当初の河北省プランからおおよそ1年遅れ、移設分、新規増設分ともに2020年末頃の稼働開始となる見通しだ。
新規増設分は段階的に設備が搬入され逐次稼働に移るとみられるが、第1期増設を予定どおりに実現できれば、その先には第2次増設や12インチへの進出といったテーマが控えており、同社の成長シナリオは一段と拡大することになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)